呑する
自然の大きさに裂けてしまつた
悪魔の口をふさぐ神はゐない
歌ふ口をふさぐほど
大きな手は何処にもない
私が歌つてゐるのではない
自然が歌つてゐるのだ、
私が歌つてゐるのではない
君等が私に歌はしてゐるのだ
そして地球の上を歩るいてゐるのではない
わたしが玉乗りのやうに
地球をまはしてゐる
危険な曲芸団に
身を投じてゐる
あゝ、ぐでんぐでんに酔つぱらへ
私の言葉よ


鶏卵遊び

詩人は公然と語る喜びをもつ
その喜びをわかつために歌ふ、
青褪めた顔を
布切れにくるんで
様子ぶつた日本人が歩いてゐるのは
私にとつては滑稽に見えるだけだ、
市民は忙がしいので
スタイリストになるひまがない
文士ばかりがシャラしやらと
平凡なことを難しさうに
言ふためにどこかに向つて歩いてゆく、
長々しい小説そんなものを読む義務を
押しつけるのはファシストのやることだ、
真理は君の小説の何処にあるのだ、
手探りで書いた小説を
眼あきに読ませようとしてゐる
なんと愚劣な形式の長さよ、
私は小説を読む位なら
鶏卵を転がして遊んでゐたほうが
はるかに楽しく真理を教へられる。


風の中へ歌をおくる

君にして
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