やうに
愛の路をすゝんでゆかう、
あなたの行く路は幸福に通ずる鉄の路です、
あなたが汽車になってゆくとき
わたしは踏切番になり、
あなたが今度は踏切番になつたとき
わたしが汽車になつてゆく、
ふたりが愛の乗客になつて
酔つてしまつたら、激しい生活の流れを
さへぎることをしなかつたら
きつと二人の生活は転覆するでせう。

愛はとかく通りすぎるものです、
時間も無視して酔ふものです、
一方が、一方をかならず守るものが必要です
怪我のないやうに目的地に着くやう
汽車になつたり踏切番になつたりしてゆかう。


昂[*底本は下左の部分が「工」の俗字を使用]然たる愛にしよう

心がうなだれたとき
わたしはあなたを抱へ起した
わたしの心がうなだれたとき
あなたはわたしの顔を支へた、
なんて愛とは
うなだれ勝になるものか、
支へがたいものは貴女の可憐な
肉体のなかにある女の純情だ、
跳ねかへる弾機《ばね》は
わたしの四肢の中にある男の意志だ、
冷静にならう、
愛は大きな事業だから、
笑つて語らう、
愛がうなだれて個人的な酔ひとして
芝生の上に眠つてしまつたとき
社会的な隷属の蜘蛛のあみが
するすると二人の上にをりてくる
本能とたたかふ
理智の剣で
パッと網を跳ねあげたらいゝ、
決して教養は
愛に冷酷なものでない、
それは愛を暖めるものだ、
うなだれ勝な愛を
昂然たるものにしよう、
貧乏人の理智と教養とをもつて、


かつて築かなかつた幸福

浄化された慾望は
どんなに若者たちの愛を清潔にするだらう、
人間としてほゝゑましい微笑を
投げかけあつて生活したらいゝ
新しいあなたの愛情に
古い報い方をしないやうに
新しい精神をささげよう。
女を見飽きたり、知り飽きたりしたと
臆面もなく言ふ男が多いのに
私は驚いた、
うつくしさの再吟味を
理論でやつてから
改めて女の美しさを発見しようとする
気の長い男達が少くないのだ。
そのうちに老齢がやつてくる
若いものの逢引に
シッシッと唾をかけたり
水をさしたりする可哀さうな
ひがみ屋になるだらう。
私は若さに答へよう――、
愛に速度を加へつつ
肉体的にもつれる暇を
生活のたたかひにもつて行きたい、
人々が曾つて築かなかつた
精神の濃度な
精神の物質化――の世界に
あなたと愛の生活を昂めようとする、
愛の冒険のさなかにあつて、
二つの性の冒険をなしと
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