やうに
私は希はうと思ふ、
ほんとうにそれは珍らしいことにちがひない、
すべての人々は秋は悲しいといふのに
あなたはそれを楽しいといふことは、
でもそれは真個《ほんと》うのことだ、
凋落するものは木の葉であつて
あなたとわたしの心ではなかつた筈だから
勇気を出して
あなたはこの楽しい秋の間に
『家事の改革』をおやりなさい
秋の葉は散る
ふと眼を木の幹にをとしてみると
木はどんなに冬の襲来に備へて
いさましく武装してゐることか、
どうぞあなたは私へのかはりに
木の幹にはげしく接吻して下さい、
自然の木と人間の生活の甘さにがさと
なんとよく似通つたものがあるかに
驚ろいて下さい、
すべての人々にとつても秋から悲しみを
拭ひさらねばならない
最初にそれをした貴女のために
恋にもあれ、労働にもあれ
とにかく秋と幸福との抱擁とを
最初にそれをした貴女に
この詩を贈る、
労働の中の愛
農村では、
生活の歌や田園での
麦の把の忙がしい投げあひのさなかに
うつくしい健康な人は笑ふのです、
都会では、
工場の雑音の
たがひにいりくんだ
整然とした音のなかで
あのうつくしい健康な人は笑ふのです、
さあ、若い人たちよ、
ちよつとの間
待つてゐて下さい、
すべての生活の不便はとりのぞかれます、
たがひに愛しあふ時間を
労働時間八時間の中に、
働きつゝ愛しあふ日がくるでせう、
ふたりの生活の
くるしみの一致点に
なんてふたりの四つの眼の
ぶつかつたところに
一つの美しい月や
エメラルドや紅玉《ルビー》のやうな
星がきらめいてゐるのでせう、
ふたりの生活を
脅やかすものへの
楯つき方の一致したところに
なんて花や散歩道や
山岳はひらけてゐるのでせう、
若い人たちよ、
あなた達の生活の
苦しみの一致したところから
その苦しみの共働的な
追つ払ひのために
たたかふ仕事を始めたところから、
殆んど調和的に愛しあふ権利を
公然と主張したらいゝ、
そして樹と月と星と花と山とに
自然に触れるために
連れだつて行つたらいゝ、
時の青春よ、
それは逃げ去るものであるが、
あわてゝ追つてはいけないものよ、
自然な闘ひは
あなたにいつまでも
愛し合ふ力を与へ
青春を失はせないでせう。
愛の出稼人
われら愛の出稼人、
草鞋を履いて
田圃に行かうか、
靴を履いて
会社に行かうか、
教科書抱へて学校に行かうか、
あるひは飛行機にのつて
敵を攻めに行かうか、
人類の愛よ、
キリギリスよ、
お前は細々と石と石との間に鳴いてゐる、
呼吸《いき》絶えんとして
絶えず、
あゝあ、情けない話だ、
いさましく我等、
愛の出稼人として出発し
大きな鎌を手にして
不正義を刈つて
正義の束をつくらうとしたが、
種の播き手は少なく
稲の刈り手は多かつたから
仕事はすぐおしまひになつた、
出発のいさましさに引き較べ、
しよんぼりとした
引揚げよ、
そして愛はキリギリスのやうに
石と石との間に鳴いてゐる、
呼吸《いき》絶えんとして、
絶えず、
あゝあ、情けない話だ、
あなたの寂寥に答へて
寂寥を私に訴へようとした
苦しさうなあなたの眼よ、
あなたはその寂しさの性質を
どうしても言葉で表現できなかつた、
わたしはすべてを知つてゐる、
何のためにあなたが苦しんでゐるかを、
あなたは私を
絶対的な愛でとらへることが
到底不可能です
そのことを考へてほしいだけです
わたしはブルジョア的な
恋愛至上主義でも
生活の上での愛情主義者でもありません、
わたしはたんなる生活人であり
社会の子です
解放されたものであり、
強く自由を求めるものです
制約の中にあつて
私をはげしくとらへてゐる総べてを
打ち破つて前進します、
個人の愛から、より拡大された
社会の愛へ、
二つのものの連《つ》ながりの強さ、太さ、
緊密の度合を知りながら
一人の愛人から
百万人の愛人をつくります。
私の愛はあなた一人の個人の愛の
所有に帰しません
あなたはそこに寂寥がある筈です
男への信頼が、不安となつて
ひしひしとあなたを襲ひ、捕へるでせう
女よ、純情家よ、
愛の本質と愛の方法とが
時代とともに移り変つてゆくことを
想像もしないあなたのために
当分はわたしは
仕事に熱中して不満な男でせう
苦しさうなあなたの眼よ、
眼は愛にみぶるひして澱んでゐる
あなたの眼が愛の社会性をしつたとき
どんなに明るく輝くことでせう
その日を私は根気よく待つてゐる、
林の中で
私はあなたの表情から
新しい時代性を知りとる
仰向《あをむ》いてゐるときあなたは楽しさうだ、
俯向《うつむ》いてゐるときは悲しさうだ、
しかしあなたの表情は硬い、
私はあなたの皮膚に現れた
表情の硬さは認めたくない、
あなたの眼が潤沢に
うるほつて光つてゐるのを知つて
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