それともくすぐつたい許りで
笑はせてしまはないのが罪だといふなら
それからどうなつたかを話を続けよう、
どうせ僕は君の訪問のために
時間をあけてをいたのだから、
君も諷刺作家として
三つの呪文を唱へる仲間に入らうとしてゐるのだから、
第一に――、批判精神、
第二に――、諷刺性、
第三に――、物質的表現、
この三つの呪文が風の間を
飛びまはるやうにならなくては
日本の平民の生活が楽しくならない、
×
三つの呪文を忘れぬやうに
未来の諷刺作家よ、
クレムリンの住人共が、
万一の場合逃げ路のために
造つてをいた横穴を
逆にネバ河から入りこむ
型変りの戦術家が
殖えるほど人生は明朗だ、
僕はこないだセルロイド工場の火事を見たが、
ポンポンと夜空に打ちあがる
爆発的な笑ひは美しかつた
学生君よ、君の心臓も、あいつの心臓のやうに、
とほくに仕掛けてをいて
導線で密語を交すのだね、
連絡が切れたときは
君の心臓は
火の絨氈をかぶつて
天井まで飛びあがるだらう、
大臣たちはチ切れ飛んだ、
自分の手や足を
探しまはつてゐたさうだ。
×
さあ、三つの呪文を唱へて
学生君よ、
日本の霧隠才蔵である僕の弟子入りをし給へ、
まだ話の残りが気になるのかね、
もつともだ、
丁度、その時、美しく着飾つた
金の冠をかぶつた雄鶏は雌鶏を従へて、
会議の席にのぞんだが、
扉の処で驚ろいて蹴つまづいて
会議室の中へではなく
外へ転げたため、
火の絨氈はかぶらずに救かつた、
その頃、ネバ河の葦の中の
小鳥がチヱ[#「ヱ」は小文字]ッと鳴いた。
底本:「新版・小熊秀雄全集第1巻」創樹社
1990(平成2)年11月15日第1刷
入力:八巻美恵
校正:浜野智
1999年6月18日公開
1999年8月28日修正
青空文庫作成ファイル:
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