かすことだ
彼女がどこにどのやうな塹壕をつくつて
男達を防ぐか
それとも彼女が全く城門を開放してしまふか
二十五
戦術家としての彼女の意志を知る必要がある
――りん子さん、あなたは何処へお寝みになる
彼女の答は活溌だ
――私に、六畳の部屋をくださいな
わたし一人の部屋よ
みなさんは四畳半に寝たらいゝわ
おゝ、なんといふ公平な処置だらう、
彼女は聡明である、
りん子は押入から夜具を引き出さうとした
押入れには掛布団が一枚入つてゐるばかり
――寒かつたら何でも
引ずりだして掛けて下さい
毛布が一枚あるよ
我々はみんなゴロ寝だ、
一人の女王のために
四人の兵士は野営の状態だ
それもよからう、心から王者に仕へるといふ
馬鹿者の心理は幸福だから、
二十六
りん子は六畳の真中に夜具を敷き
火鉢の火に手をかざしながら
何やら雑誌を読みだした、
男達とサクラ子は四畳半に鮨詰めになつて
穏やかならぬ興奮状態で低い声で話合ふ
――君は吉田りん子といふ女を
どう思ふかね
悪党でもないやうだね、
草刈真太は低い吃り声で
古谷典吉に向つて語りだす、
――おれは、あの女が好きなんだ、
――ところで大西君も
あの女に満更でもないだらう、白状しろ
二十七
草刈の質問で大西三津三は悲しさうな顔をした
――まあ、待つてくれよ、
おれといふ男はね
女を好きになるまでには
とても時間がかかるんだ
それは悲しいことだよ
りん子だつて好きとも嫌ひとも
まだ判断がつかないんだ
漠然たる不安の間に
時に怖ろしく勇気が出ることもあるが
あゝいふ、颯爽とした女と
つきあつた経験がないんだよ
――さうかね、尾山清之助先生の感想は
尾山は答へない
愛児のサクラ子を寝せつけながら
ただくす/\と笑つてゐる
サクラ子は次第に眠気を催ほして
可愛い黒い瞼毛のまぶたを
とぢたり、あけたりして間もなく寝入つてしまつた
二十八
――ところで俺だ、
俺はあの女好きだよ
彼女はいつも濡[#底本の「漏」を訂正]れてゐるカハウソといつた情味と
精悍さを兼ね備へてゐる
『動物詩集』の作者、草刈真太は
絶讃する言葉に苦しんでゐるやうな
真に迫つた表情をする
草刈の形容は当つてゐる
彼女の小さな体は
いつも充実した感情で
水を出入りするカハウソによく似てゐる、
そし
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