性質を悪るくするんだらう、(憎々しさうに)糞沈着におちつき払つて、僅かな道程を、われ/\の十倍も時間をかけて通りやがるんだ、やい百姓め、たがひに何か親しさうに話しながら、(憎々しく)世間の秘密をすべて知つてゐるやうな意味ありげに笑ひ合ふ、さあいざり立て、立つてみろ、女共の加護と同情の下に、見事突立ちあがれ、さあ立て、立て、青年達、こやつの剛[#「剛」に「ママ」の注記]慢の腰をのばしてやるんだ(いざりに襲ひかゝつて無理に立てようとする、婦人合唱隊は青年達の行為を押しとどめて、男女たがひに揉み合ふ)
○合唱いざり、(陽気に、体を左右にふり、左右の手を物乞ひらしく動かしながら、合唱)仰せのとほり、君等の十里は、われらの千里さ、
○いざり一、お気の長いが、われらが取柄、
○いざり二、でも、みなさん結局は!
○いざり三、着くべきところへ、着いたら、何の文句もないでせう。
○合唱いざり、さあ、タワリシチ
   深刻ぶつた
   夜中の思想の幕を引きあげろ
   五体揃つた人間様ぢや
   とかく物事に尻込なさる
   そこで腰の蝶ツガヒの
   はずれた我々が
   人生を陽気にするやう
   前座を勤めませう。
○いざり一、然も君等より朗らかに
○いざり二、然も君等より勇敢に
○いざり三、然も君等より人間的に
○いざり四、然も君等より大胆に
   然も君等より目的に向つて
○合唱いざり、朗らかに、勇敢に、人間的に、大胆に、目的に向つて、――さあ始めよう、
○いざり一、(元気よく)さあ頼むよ、鳴物を、太鼓を
○いざり二、(皮肉に)お願ひしますよ、タンバリンを
○いざり三、いざりの生ひ立ちを過去の物語りを、御披露しませう。
 (いざりの群賑やかに踊り出す、膝頭をコツ/\と音させながら)
   ラッパの音加はる。カスタネットの音加はる、合唱隊は直立して歌ふ、四人のいざりが身振面白く跳ねながら踊る。
○合唱婦人、こゝに四人の
   いざりの兄弟がゐた(タンバリン)
○合唱男、彼等は生れつきの
   いざりではなかつたらう(太鼓)
○合唱婦人、あるとき四人が
   仲良く揃つて山へ
   獣をとりに出かけた
   谷底をふとみをろすと(タンバリン)
   (照明、幻想的な青)
○合唱男、獲物がみつかつたか、(太鼓)
○合唱婦人、ゐた、ゐた、ゐたよ、
   大きな奴がさ
   虎かとみれ
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