んな無道なことをするのは
としよりを虐めて
ろくなことは無いぞえ
老婆は金切声をあげて逃げ廻つたが
男達は熱心に飛びかゝつて
老婆達の白衣をさんざんに汚すことをやめない、
老婆のたかい悲しみの声はながかつた
朝鮮の夜のしづかな周囲に
ひとときの騒音がたち、
まもなくひつそりと元の静けさにかへる、
面事務所の男達の計画的な
墨の襲撃にまつ黒に汚れた
老婆のみじめな白衣、みだれた髪、
顔を歪ませて立ちあがり、立ち去る。
夜が明けると
村の老婆たちは何事もなかつたやうに
近所誘ひあつて
洛東江の河岸に打揃つて出かけてゆく、
汚された白衣を
ざぶりと水にひたすと
河は瞬間くろい流れとなる
そしてやがて黒い一條の流れは
しだいに薄れて
河下に去つてゆく
老婆の憤りの表情も
しだいになごやかになつてゆく
トクタラ、トクタラ、トクタラと
洗濯台《パンチヂリ》を陽気にうちだす
たがひに顔見合はせて
強くすべての出来事を肯定しようとして
いたいたしい微笑の顔にかはつてゆく
かよわい手をふりあげて
強く石をうつ
強く朝鮮の歌をうたひだす
黒くよごれた白衣を棒《パンチ》でうつ
うつパンチも泣いてゐる
打たれる白衣も泣いてゐる、
うつ老婆《ロツパ》も泣いてゐる
打たれる石も泣いてゐる
すべての朝鮮が泣いてゐる
長篇叙事詩 魔女
叙事詩「魔女」の人物
海羅義丘( )
千敬太郎(青年)
天羅多吉(独立画家)
富士光雄(渕[#「渕」に「ママ」の注記])
マリア ( )
悪魔 ( )
魔女 ( )
姉 ( )
序詩
すべての女の読者諸君よ
いまは時代の過渡期です、
若しあなたに
恋愛に就いての
真[#「真」に「ママ」の注記]ねんがなかつたら、
恋することはお控へなさい
でなければ貴女の
教養と財産にとつて
この上もなく危険がやつてきます
若い女よ
あなたに若し時代的に恋する若い
勇敢さがあつたなら
私のこの物語りを参考にしてください
日本の悪魔と魔女と
聖母がどのやうに
三つ巴で血に塗れたかといふ
経験に耳を傾けて下さい、
○
第一章 悪魔の散歩、
一
『泣けるか、お前はこの世の
ささいな出来事に就いても、』
『喜べるか、お前は退屈な人生にも、』
『笑へるか、お前の運命に、虚無的でなく』
悪魔の散歩は籐のステッキで
こ
前へ
次へ
全49ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング