期を待つ、
やがて満洲に湿潤期がくると
プラムバゴは遠慮勝に根を出し
巻いてゐた葉をそろそろと
普通のやうに開きだし、
飛んで来た処、行きあたりばつたりに
自分の居るところに根をおろす、
満洲の激しい風に
この小さな植物は、いつも根こそぎにされるから
何時の間のにか種属保存と
本能的な自体保護とを覚えてしまつた、
空を飛びあるく奇妙な植物
きのふは百支里、北に――
けふは二百支里、南へ――
支那の兵隊は
戦争が終ると旗を捲いて四方に散る、
季節がくれば集る、
そして満洲の大舞台を出没自在、
まるで彼等はプラムバゴのやうだ。
この愛すべきプラムバゴ中隊が
何故、日本軍に全滅されたかを語らう。
黄色い、土の小さな丘陵のかげに
プラムバゴ中隊がかたまつてゐた、
前面には日本軍がゐる筈だつた、
しかし姿が見えなくて
指で肋骨をたたくやうなゴボンゴボンといふ
射撃の音が遠くにきこえた
兵隊は何れも応募兵、
メリヤスシャツの工場から飛出してきた男、
生れつきの浮浪人やら、
兵器廠を首になつた男、
印刷工場の植字工上り、
その顔触れは種々雑多で
日本の失業者の顔触れを集めたものと
同じやうな産業別だ
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