めに
投繩を投げよ
わが意志は静かに立つ
その意志を捕へてみよ。
その意志はそこに
そこではなく此処に
いや其処ではなくあすこに
おゝ検事よ、捕吏よ、
戸まどひせよ。
八つ股の袖ガラミ捕物道具を、
そのトゲだらけのものを
わが肉体にうちこめ
私は肉を裂いてもまんまと逃げ去るだらう。

仔馬、たてがみもまだ生えた許り、
可愛い奴に私はまたがる、
私の唯一の乗物、
そいつを乗り廻す途中には
いかに大泥棒といへども
風邪もひけば
女にもほれる、
酒ものめば、
昼寝もする、
すべてが人間なみの生活をする。
ただ私の大泥棒の仕事は
馬上で詩をつくること、
先駆を承はること、
前衛たること、
勇気を現はすことにつきる。
私が馬上にあつて
詩をうたへば――。
あゝその詩は
金持の世界から何者かをぬすむ、
まづ奴等の背骨をぬすむ
奴等がぐにや/\に腰がくだけてしまふやうに
それから歴史を盗む、
そしてこつちの帳面にかきかへてしまふ、
それから婦人を盗む、
こいつはたまらない獲り物だ。
偶然をぬすんで必然の袋へ、
学者をぬすんで
我々の記録をつくつて貰ふ、
少女をぬすんで
我々の仲間のお嫁さんに、
国家
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