とき
己れの悪魔のやうな性格を恥ぢつゝ
人々の平穏に
新しい苦しみを植ゑつけることが
果してあの人々にとつて
幸福となるか
悪魔はまたこの人々にとつての
悪魔の招来を約束できるか
どうかといふことに疑ひ始めた。

     2
明日のことは判らない
ただ明瞭なことは彼自身の
もつてゐる慾望の性質である。
あらゆるものを征服し
尽さうとするときの
彼の行動は
どのやうな死のやうな
静かな野へも風を捲き起す
しづかな野や其処に生活する
ものにとつて果して彼の行動は
愛され感謝されるだらうか
彼の慾望は高い
低い慾望家たちにとつて
彼は何時も嫉妬されてゐる
ましてや平凡な生活人にとつて
彼が真理を語るときは
いつも風を捲き起すから
彼はにがにがしく見かへされる
事実、湯にひたつてゐるやうな
静かな生活といふものもある。
また何の不足も己れ自身には
感じてゐない人々も少くない、
かうした人々の生活の
窓へ彼が顔を突込んで
中をのぞいて叫ぶとき
女達や子供達はキャッと叫ぶ
そして主人は身構へをする
平和な人々は口々に罵る
――彼は不幸をもつてきた、と

     3
沈鬱な人々も少くない
彼はそ
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