腐つた血によく似た色だ
×
いつでも いつでも
俺の顔をじろじろみる
卓子《テーブル》のもくめの奴がしやくに障る
まあよい……まあよい
俺は機嫌をなほして
五色の酒をつくらう
そしてはにかんだ女のやうにうつむいて
そつと呑まう
×
あれあれ
この室の中のお月様は
妙に青白いお月様だ
俺の舌をビフテキにして
刃のない洋刀で
ちび/゛\刻んで喰ひたいものだ
月夜
月のない、あかるい月夜
あをじろい月夜
あひびきの女がどこかのくらやみにひそむ
あをじろい月夜
笛が鳴つて
笛が鳴つて
按摩の笛が鳴つて
きえてしまつた月夜
いるみねーしよんの松の樹に
首くゝりの首が
のびたり、ちぢんだりしてゐる夜である
なやましい月夜である
煖炉
ダクダクダク×××胸
この暖気の中から女が生れる
ダクダクダク×××胸
この暖気の中から情慾が生れる
鉄瓶は踊る
蓋を廻る、湯気…………白輪
爪先から這ひ上る肌よ
強烈な酒を盛つたカップよ
テーブルを辷《すべ》つて来い
この聖者の魂の壁を
きまぐれに刻む
カリ××カリ…………と刻む
サタンよ、去れ
まだ……まだ、あいつは
煖炉の上でバタを溶かして居るな
春情は醗酵する
一
真夜中の慾情は星のやうに青く輝き
さんらんと其処此処のくさむらで
露のやうに光りかがやいてゐた
しかしこの慾情も
冬の風景のなかにしづんでしまふと
ひからびた粘土のやうに
かさかさと風にとんでしまふ
かつては重たくやさしくもつれあつた
春情のおもかげも
こゝに寂しくやるせない悶々の思ひに
はるかにちりぢりにちつてしまつた
そのかけらはつめたい氷のやうで
いまさら拾ひあつめるすべもない
ふしあはせな北国の人々は
けふも真冬の風物に白くさらされて
血温は凍つた外界の大気とひとしくなつて
青春もむなしくふるへをののいてゐた
二
或る日
男はすとをぶ[#「すとをぶ」に傍点]にあまりちかくよつて
腰をあたためすぎたので
病的にもあやしく手足をふり
はげしくはげしく手足をふり
膝頭をうちつけたり
両手ではげしくさすつたり
真昼の光線を浴びた蠅がよくするやうな
奇怪なまねをはじめだした
感情はますます激しく燃焼し粘着し
あやしい運動はますますはげしくなつてきた
男はなかば瞳をつむつたかたちで
霧のやうな空気のなかを
魚のやうにさかんにおよぎ廻つ
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