は醜い片足のきずぐちを見せ
場末のやせた女はぼてれんの腹をつきだし
囚人は鎖をがちやがちやならし
病んだ男はくぼんだ眼《まなこ》をひからせて
みんな……みんな……みんなで
街を歩いてくれ
あの高塀のめぐりをぐるぐるめぐり
お金もちの旦那様や奥様がよつくねむられるやうに
死と、貧乏と、あきらめのねんねの唄を歌つてやれ
追憶の帆舟は走る
ふるへたたましひをこぎよせ
なみ間にただよふ
真珠のかけらをひろはん
つい憶の帆舟は
つい憶のかぜをはらんで
あれ…まつしぐらに沖に向つてはしるではないか
あの水のひろびろとかぎりなくそのゆく手のさいはてはまつくらで
ならくの渦をまいてゐる
船頭はなみだをながし帆づなをとり
船客はおりかさなつて泣きねいり
しづかにあきらめの小唄をくちずさみ
ああ……
けふもはやてに乗り浪のうねりを
矢のやうに
めあてなき帆舟ははしる
北国人と四月
四月の北国《ほつこく》はうれしい
みな雪がとけてゆくから嬉しい
なかには福寿草が生きてゐるのだよ
雪はさまざまの断面をもつてゐるなつかしい
冬の層をつくつて居る
お日さまもむろん俺等の味方で
けさも雪どけの雨を降らして呉れた
×
だい一の層からはひさしのとれた子供のしやつぽ
第二の層からは片つぽの白足袋とぱいなつぷるの空罐
だい三の層からはあきあじの骨と短い防寒靴
×
それぞれはみな春の歓迎者で提灯行列の参加者である
一九二二年作
散文詩 ローランサンの女達よ
可憐なる夢幻の女性マリー、ローランサンの芸術よ、抒情と優美のマスクをかむつたかよわい闘士可愛らしい反抗者よ、そなたが描く男性を象徴した斑馬、女鹿、獅子、犬、すべての前生は詩人であつたといふ獣達は、女性の前には愚なる情慾の征服者で西班牙太鼓《スペインたいこ》、六絃琴をもつたごきげんとり、少女等《をとめら》の玩具となり、夫人等の足を舐め髪の毛に接吻をする従僕であるといふのか、私はローランサンを愛する、そしてそなたが男性を皮肉な情慾の屈服者として玩弄物視したかよわい反抗を愛すると同時に男性の片割れとしてそなたの皮肉な芸術観にたいして地上に住むすべての女性にたいしてこの一文を贈る。
わたしの可愛いマリー、ローランサンの女達よきみらはいつたい何処から来たのだ、不思議な着物を着ていつの間に私等の踊りの仲間に入つてきたのか、低い口笛
前へ
次へ
全24ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング