ふきかけて見はみつれども
なにがなしに素足となりてわが街をあゆむこころのおきにけるかな
町角の湯屋にうどん華《げ》さきしてふ噂もいつかきえにけるかな
朝顔は咲きて萎《しぼ》みてくりかへしころりと鉢に散りにけるかな
さてこれよりいづこにゆかむ十字路に立ちてあたりを見まはせしかな
少年のこころとなりて石塊《いしころ》を路上ころころころがしてゆく
街なかにあたりうかがひ呼子笛ひとふきふけばこころおさまる
谿越えてあの山こえて帰るてふ飴屋おもへば笛きこえ来し
かつかつと足音たかく橋の上人形のごとうごく兵隊
つつましく日本《にほん》のをんな菊の花もちて街ゆくふさはしきかな
嘘つきのたくみの友とさ夜ふけに語《かた》りあひけりうそとしりつつ
子らがみな一列にならびつぐみたる口元みればお可笑かりける
鳥さしの児の帽子のひさしま日をうけしろく輝やきうごかざるかも
尾張屋爺 思ひ出
杣夫なる尾張屋爺はさむらいの成《な》れの果《は》てなり剣術を知る
新聞をまるめて爺と仕合しぬをりをり禿をたたくなりけり
杣夫なる尾張屋爺はさむらいの成れの果てなり忍術を知る
忍術をみせよと爺にせがみたり外面《とのも》はしきり吹雪するなり
眼をつぶり尊《たふ》とげのこといひたれど蟇《ひき》はもいでず鼠もいでず
酒のめば水遁火遁忍術をなすといひしがついにせぬなり
飯食みてをればとどろと裏山に爺が大樹を倒せしひびき
かんじき……を履きて爺は朝はれの雪の林にいりにけるかな
秋の船旅
船客に道化師まぢりほろほろと横笛なりぬ秋のふな旅
山遠き小能登呂《このとろ》の浜まひる日に青くかがやき草もゆるみゆ
踊る烏
なやましき夏の真昼のへんげものからす輪となり踊るなりけり
なやましき烏の踊りみぎり足いちぢるしくもあげにけるかな
ちよんちよんと二《ふた》足三《み》足かた足で歩みしろ眼をつかひけるかな
からす等のへんげの踊りみてあれば胸がくるしくなりにけるかな
恋の歌うたふ男のきまぐれを烏はかあとわらひけるかな
愛奴部落
のぞきたるアイヌの家にいたましく鮭《さけ》の半身《はんみ》のつるされしかな
和子《しやも》の子の愛奴《あいぬ》に悪口いひければ毒矢《ぶしや》木ひくぞとわらひけるかな
山焼けの遠火のけむりたなびきてかすみのごとくみゆるなりけり
草丘をのぼ
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