見つけて、妹のサラに話した。サラはファラデーに何と書いてあるのか見せて頂戴な[#「何と書いてあるのか見せて頂戴な」に傍点]と言った。これにはファラデー閉口した。結局それは見せないで、別に歌を作って、前の考は誤りなることを発見した[#「誤りなることを発見した」に傍点]からと言ってやった。これはその年(一八一九年)の十月十一日のことである。この頃からファラデーは、すっかりサラにまいってしまった。
時に、手紙をやったが、それらのうちには中々名文のがある。翌年七月五日附けの一部を紹介すると、
「私が私の心を知っている位か、否な、それ以上にも、貴女は私の心を御存知でしょう。私が前に誤れる考を持っておったことも、今の考も、私の弱点も、私の自惚《うぬぼれ》も、つまり私のすべての心を貴女は御存知でしょう。貴女は私を誤れる道から正しい方へと導いて下さった。その位の御方であるから、誰なりと[#「誰なりと」に傍点]誤れる道に踏み入れる者のありもせば[#「ありもせば」に傍点]導き出さるる様にと御骨折りを[#「御骨折りを」に傍点]御願い致します。」
「幾度も私の思っている事を申し上げようと思いましたが、中々に出来ません。しかし自分の為めに、貴女の愛情をも曲げて下さいと願うほどの我儘《わがまま》者でない様にと心がけてはおります。貴女を御喜ばせする様にと私が一生懸命になった方がよいのか、それとも御近寄りせぬでいた方がよいのか、いずれなりと御気に召した様に致しましょう。ただの友人より以上の者に[#「ただの友人より以上の者に」に傍点]私がなりたいと希《こ》い願ったからとて、友人以下の者にしてしまいて、罰されぬようにと祈りております。もし現在以上に貴女が私に御許し下さることが出来ないとしても現在私に与えていて下さるだけは[#「だけは」に傍点]、せめてそのままにしておいて下さい。しかし私に御許し下さるよう願います。」
二五 結婚
サラはこの手紙を父に見せると、父は一笑に附して、科学者が、馬鹿な事を書いたものだといった。ファラデーは段々と熱心になる。サラは返事に困って躊躇し、※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつくり」、65−6]のライド夫人とラムスゲートの海岸へ旅行に行ってしまった。ファラデーは、もうジッとしてはいられない。追いかけて行って、一緒にドーバーあたりで一日を送り、愉快に満ちた顔して帰って来た。ついに一八二一年六月十二日に結婚した[#「ついに一八二一年六月十二日に結婚した」に傍点]。
式の当日は賑やかなことや、馬鹿騒ぎはせぬ様にし、またこの日が平日と特に区別の無い様にしようとの希望であった[#「平日と特に区別の無い様にしようとの希望であった」に傍点]。しかし実際においては、この日こそファラデーに取って、生涯忘るべからざる日となったので、その事はすぐ後に述べることとする。
結婚のすぐ前に、ファラデーは王立協会の管理人[#「管理人」に傍点]ということになり、結局細君を王立協会の内に連れて来て、そこに住んだ[#「そこに住んだ」に傍点]。しかし舅《しゅうと》のバーナードの死ぬまでは、毎土曜日には必ずその家に行って、日曜には一緒に教会に行き、夕方また王立協会へ帰って来た。
ファラデーの真身の父は、ファラデーがリボーの所に奉公している中に死んだが、母はファラデーと別居していて、息子の仕送りで暮し、時々協会にたずね来ては、息子の名声の昇り行くのを喜んでおった。
ファラデーは結婚してから一ヶ月ばかりして、罪の懺悔をなし、信仰の表白をして、サンデマン教会にはいった。しかしこの際に、細君のサラには全く相談しなかった。もっとも細君は既に教会にはいってはおった。ある人が何故に相談しなかったときいたら、それは自分と神との間のみ[#「自分と神との間のみ」に傍点]の事だから、と答えた。
二六 幸福なる家《ホーム》
ファラデーには子供が無かった。しかし、この結婚は非常に幸福[#「非常に幸福」に傍点]であった。年の経つに従って、夫妻の愛情はますます濃《こま》やかになるばかりで[#「ばかりで」は底本では「ばかりて」]、英国科学奨励会(British Association of the Advancement of Science)の年会があって、ファラデーがバーミンガムに旅行しておった時も、夫人に送った手紙に、
「結局、家《ホーム》の静かな悦楽に比ぶべきものは外にない。ここでさえも食卓を離れる時は、おん身と一緒に静かにおったらばと切に思い出す。こうして世の中を走り廻るにつけて、私はおん身と共に暮すことの幸福を、いよいよ深く感ずるばかりである。」
ファラデーは諸方からもらった名誉の書類[#「名誉の書類」に傍点]を非常に大切に
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