に傍点]」]宴会はもとより学会にも出ないで、専心研究に従事した時代は感嘆するの外はない、晩年に感覚も鈍り、ぼんやりと[#「ぼんやりと」に傍点]椅子《いす》にかかりて、西向きの室から外を眺めつつ日を暮らし、終に眠るがごとくにこの世を去り、静かに墓地に葬られた頃になると、落涙を禁じ得ない。
 前編に大体の伝記を述べて、後編に研究の梗概《こうがい》を叙することにした。
    大正十二年一月[#地から5字上げ]著者識す。
[#改丁]

     目次

  前編 生涯

    生い立ち

一 生れ
二 家系
三 製本屋
四 タタムの講義
五 デビーの講義
六 デビーに面会
七 助手
八 勉強と観察
九 王立協会
一〇 王立協会の内部
一一 王立協会の講義

    大陸旅行

一二 出立
一三 フランス
一四 イタリア入り
一五 スイス
一六 デビー夫人
一七 デ・ラ・リーブ
一八 旅行の続き

    中年時代

一九 帰国後のファラデー
二〇 デビーの手伝い
二一 自分の研究
二二 研究の続き。電磁気※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]転
二三 サンデマン宗
二四 サラ・バーナード嬢
二五 結婚
二六 幸福なる家
二七 ローヤル・ソサイテーの会員
二八 講演
二九 協会の財政
三〇 ファラデーの収入
三一 千五百万円の富豪
三二 年金問題

    研究と講演

三三 研究室で
三四 研究の方針
三五 学者の評
三六 実験して見る
三七 実験に対する熱心
三八 発見の優先権
三九 学界の空気
四〇 実用
四一 講演振り

    晩年時代

四二 一日中の暮し
四三 病気
四四 保養
四五 しなかった事
四六 訪問と招待
四七 質問
四八 ローヤル・ソサイテーの会長
四九 研究と著書
五〇 名誉
五一 宗教
五二 狐狗狸《こくり》の研究
五三 晩年
五四 終焉
五五 外見

  附記
    ルムフォード伯
    サー・ハンフリー・デビー
    トーマス・ヤング

  後編 研究

    研究の三期

   第一期の研究

一 諸研究
二 電磁気※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]転
三 手帳
四 ガスの液化
五 ガラスの研究

   第二期の研究

六 磁気から電流
七 アラゴの発見
八 感応電流の発見
九 結果の発表
十 その後の研究
一一[#「一一」は底本では「一〇」] 媒介物の作用
一二 その他の研究
一三 電気分解
一四 静電気の研究
一五 その後の研究

   第三期の研究

一六 光と電磁気との関係
一七 磁気に働かるる光
一八 磁性の研究
一九 光の電磁気説
二〇 その他の研究
二一 再び感応電流
二二 晩年の研究
二三 研究の総覧

    年表
    参考書類
    地名、人名、物名の原語
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前編 生涯
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      生い立ち

     一 生れ

 前世紀の初めにロンドンのマンチエスター・スクエーアで、走り廻ったり、球をころがして遊んだり、おりおり妹に気をつけたりしていた子供があった。すぐ側のヤコブス・ウエルス・ミュースに住んでいて、学校通いをしていた子供なのだ。通りがかりの人で、この児に気づいた者は無論たくさんあったであろうが、しかし誰れ一人として、この児が成人してから、世界を驚すような大科学者になろうと思った者があろうか。
 この児の生れたのは[#「生れたのは」に傍点]今いうたミュースではない。只今では大ロンドン市の一部となっているが、その頃はまだロンドンの片田舎に過ぎなかったニューイングトン・ブットが、始じめて呱々《ここ》の声をあげた所で、それは一七九一年九月二十二日[#「一七九一年九月二十二日」に傍点]のことであった。父はジェームス・ファラデーといい、母はマーガレットと呼び、その第三番目の子で、ミケルという世間には余り多くない名前であった。父のジェームスは鍛冶職人《かじしょくにん》で、身体も弱く、貧乏であったので、子供達には早くからそれぞれ自活の道を立てさせた。
[#「ヤコブス・ウェルス・ミュースの家」の挿絵(fig46340_02.png)入る]

     二 家系

 ファラデーの家はアイルランドから出たという言い伝えはあるが、確かではない。信ずべき記録によると、ヨークシャイアのグラッパムという所に、リチャード・ファラデーという人があって、一七四一年に死んでいるが、この人に子供が十人あることは確かで、その十一番目の子だとも、または甥だともいうのに、ロバートというのがあった。一七二四年に生れ、同八六年に死んでいるが、これが一七五六年にエリザベス・ジーンという女と結婚して、十人の子
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