使用するには、いかにして食ひ、いかに着んかに無頓着であるといふ意味に於て、貧乏に甘んじなければならぬ。過般の爭鬪に於て、すべての受動的抵抗者は――多少の例外はあつたが――そこまで進む覺悟のある者はなかつた。或る者はただ名ばかりの受動的抵抗者であつた。彼等は何等の信念をも有たずにやつて來た。雜多な動機でやつて來た者が多く、それより數は尠いが、不純な動機を持つてゐた者もゐた。中には[#「中には」は底本では「中はに」]、鬪爭中、極く嚴重に監督してゐなかつたら、進んで暴力に訴へようとした者もゐた。爭鬪が長引いたのは、それがためであつた。何となれば、最も純粹な精神の力を不完全な形に於て用ひるならば、救ひは直ちに來るからである。この力を用ひるためには、各個人の精神的訓練を長い間行ふことが絶對に必要である。それによつて、完全な受動的抵抗者は殆んど――全くでないとしても――完全な人間になり得るのだ。吾々は一足飛びにさういふ人間になることは出來ないが、若し私の建言が正しいとすれば――私はそれを正しいと思つてゐるが――吾々の中にある受動的抵抗の精神が強ければ強いだけ、吾々は善い人間になれるのだ。それだから
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