姓《せい》を後《あと》に名《な》を前《まえ》に呼《よ》ぶ風習《ふうしふ》であると誤解《ごかい》せしめ、有識《ゆうしき》の歐米人《おうべいじん》をして、日本人《にほんじん》が固有《こゆう》の風習《ふうしふ》を捨《す》てゝ外國《ぐわいこく》の慣習《くわんしふ》にならうは如何《いか》にも外國《ぐわいこく》に對《たい》して柔順過《じうじゆんす》ぎるといふ怪訝《けげん》の感《かん》を起《おこ》さしむるに過《す》ぎぬと思《おも》ふ。
それよりも、吾人《ごじん》は必《かなら》ず常《つね》に姓前《せいぜん》名後《めいご》を徹底的《てつていてき》に勵行《れいかう》し、世界《せかい》に日本《にほん》の國風《こくふう》を了解《れうかい》させたならば各國《かくこく》の人《ひと》も日本《にほん》の慣例《くわんれい》を尊重《そんちよう》してこれに從《したが》ふに相違《さうゐ》ない。
餘談《よだん》に亘《わた》るが總《そう》じて歐米《おうべい》の慣習《くわんれい》と日本《にほん》の慣習《くわんしふ》とが全《まつた》く正反對《せいはんたい》である實例《じつれい》が甚《はなは》だ多《おほ》い。
例《たと》へば年紀《ねんき》を記《しる》すのに、日本《にほん》では年《ねん》、月《げつ》、日《ひ》と大《だい》より小《せう》に入《い》り、歐米《おうべい》では、日《ひ》、月《げつ》、年《ねん》と逆《ぎやく》に小《せう》より大《だい》に入《い》る。
所在《しよざい》を記《しる》すのに、日本《にほん》では、國《くに》、府縣《ふけん》、市《し》、町《ちやう》、番地《ばんち》と大《だい》より小《せう》に入《い》るに、歐米《おうべい》では、番地《ばんち》、町《ちやう》、市《し》、府縣《ふけん》、國《くに》と、逆《ぎやく》に小《せう》より大《だい》に入《い》る。
日本人《にほんじん》が歐文《おうぶん》を書《か》く場合《ばあひ》、この慣例《くわんれい》を尊重《そんちよう》して、小《せう》より大《だい》に入《い》るのは差支《さしつかへ》ないが、その内《うち》の固有名《こいうめい》は斷然《だんぜん》いぢくられてはならぬ。
例《たと》へば地名《ちめい》の中《なか》にも姓名《せいめい》を具《そな》ふるらしいのがあるが、この場合《ばあひ》姓名《せいめい》を轉倒《てんたふ》するのは絶對《ぜつたい》に不可《ふか》である。
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