該学年間、その他の研究会講習会の類にありては、その会期間とし、いづれも、毎二十五冊に対し、手数料として一ドル(弐円)を徴す。目下、ニューヨークにある巡回文庫は、普通専門各種のものを合算するときは、その数五百以上に達すといえり。
 多方面の嗜好に応ずべき各種の図書を借受けんとする者には、同時一文庫以上を使用することを得しめ、かくして将来公立図書館設置の地を作り、歴史、地理、文学、技術、実業等、各種専門に渉る地方団体または研究倶楽部の類には、各その専科に属する文庫を貸付し、もってその発達研究を幇助す。目下、ニューヨークにある研究倶楽部にして、州立図書館より、絶えず、この種の供給を受くるもの三百以上に達せりという。想うに、巡回文庫と研究倶楽部とは、互に相待て今日のごとく発達せること疑うべからず。
 四、以上は、ニューヨーク州における巡回文庫の成績及び現況の一班なり。その他の各州は、いづれも、同州を模範としたるものなれば、概して大同小異なれども、試に一二州の成績を例示せん。「ウイスコンシン」州においても、またニューヨーク州の先例にならい、州の無料図書館会議を組織し、巡回文庫事業を補助することとせり。毎函三十冊をもって[#「もって」は底本では「もつて」]一文庫となし、一文庫ごとに、目録、規則書、貸付帳等を納め、一ヶ年一ドルの手数料を徴し、中央部より地方借受組合に送致す。各組合には、駐在所《ステーシヨン》を設け、中央部との交渉通信のために書記一名と、文庫の保管並出納のために司書一名とを置くの仕組なり。
 五、同州中にて、無料巡回文庫の貸付を受くる某郡は、人口約二万五千を有すれども、多くは三四百の小部落に散在す。郡中「メノモニー」と称す、人口八千を有する一邑あり。同邑には、既に善美なる一紀念図書館の設置ありて、上院議員スタウト氏もまた現に同館委員の一人なり。然るに氏は遠隔なる村民には同図書館も、絶えて、その要なきを認め、州立無料巡回文庫会議に謀り、自資を抛て「スタウト無料巡回文庫」を組織し、郡内各村を通して巡回せしむるの方法を設けたり。
 六、同州には、目下、百有余の巡回文庫あり。今、同州無料図書館会議の成績報告につき、その利益として列挙せる要点を概括すれば左のごとし。
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一、寒村僻邑をして、善良なる図書に接し易からしむ。
二、図書の選択管理を専問家の手に委するが故に安全なり。
三、家屋借料、給料、燃料、燈火に関する経費を要せざるが故に、経済なり。
四、各町村を通して、絶えず、巡回せしむるが故に、公衆の読書趣味を喚起す。
五、巡回文庫駐在所は、知識の新中心なり。
(以下略)
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 右の如く列挙したる後、同報告者は更に概括していわく、
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要するに巡回文庫は、僻遠の町村住民をして些少し経費にて有益健全なる多数の図書に接することを得しめ、単に、この種の図書に対する興味を喚起するのみならず、その興味の馴致せらるるまで、読書の範囲を制限するの便利あり。……
巡回文庫は日曜、夏期、冬期等の休業なく、昼夜間断なき無月謝の学校にして、老幼男女に鼓吹と教訓と娯楽とを与えしかもその課程は、庖厨にある妻君にも、田圃にある農夫にも、工場にある職工にも、学校にある教師にも、病室にある患者にも、運動場にある児童にも、市町村の[#「市町村の」は底本では「市村町の」]教職にある公民にも、洽く通せさる所なし。……
一般人民のために、至大の便益を与うるものは、要するに、少数の大図書館にあらずして、小規模なる数多の巡回文庫なり。……
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 七、「ニユー、ジエルシー」巡回文庫は、きわめて近年の創立に係り、却て参考に供すべきがごとし。千八百九十九年創立当時の計画にては、まず五十冊よりなれる文庫二十函を購入することとし、州立図書館長これが管理の任に当り、町村の申出によりこれが貸出に応ずることとし、これが貸付を得たる地方委員と地方図書館員とをして、文庫に対する一切の責に任せしめ、借受後、六ヶ月を経れば、これを返納して他の引換を求むる仕組なり。しかして州においては、文庫使用の利益を受くる町村より、毎年五ドルを徴収して、文庫維持の経費に充て、しかして文庫を借受けたる町村においては、その図書を個人に貸付するには、その返納期日を誤りたる者に対し、一般の規程に依り、過料を徴収するの他、全て無料なるべく、しかして、此巡回文庫は、古今の小説、伝記、歴史、紀行、と理学及び文学とよりなれりという。
 八、要するに、巡回文庫はニユーヨークを中心として創設せられ、漸次「マッサチューセッツ」、「ウイスコンシン」、「ミシガン」、「ペンシルヴェニヤ」、「メリーランド」、「オハヨー」、諸州に普及して、既に争うべからざる成績を得た
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