波瀾にあやなされた人達に廻り会うこともあるまいと思うと、なかなか別れがたない思いがする。
 二人の話によると、エレアーナ王女は、大叔母のマラコウィッチ大公妃のとりなしで、巴里の市外にある、サント・ドミニック修道院に入って、そこで死んだ形式になり、一平民として、仏蘭西に帰化して、志村氏と結婚したのだそうだった。

 毎月の八日に、じぶんの墓に花を置きに来るのは、つまり、激しい日の追憶を新たにして、現在の幸福に、いっそう深く酔おうとするためなのである。



底本:「久生十蘭全集 6[#「6」はローマ数字、1−13−26]」三一書房
   1970(昭和45)年4月30日第1版第1刷発行
   1974(昭和49)年6月30日第1版第2刷発行
初出:「モダン日本」
   1939(昭和14)年7月〜8月
※底本の二重山括弧は、ルビ記号と重複するため、学術記号の「≪」(非常に小さい、2−67)と「≫」(非常に大きい、2−68)に代えて入力しました。 
入力:tatsuki
校正:伊藤時也
2009年10月21日作成
青空文庫作成ファイル:
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