くだすって、適当なご判断をお下しねがいましょう」
 そう言って、携《たずさ》えて来た支那蝋燭を入念に物差で測り、適当な長さに切縮めると、それを机の上に造作《つくりつ》けた燭台の上に立て、まわりの灯火《あかり》を悉《ことごと》く吹消してから、支那蝋燭にゆっくりと火を点した。
 一同、固唾《かたず》を呑むうちに、忽然と一方の壁の面に現出してきた人の姿!
 朱房のついた匕首を振上げ、今にも襲いかからんとするように凄まじい形相でこちらを睨んでいる陳東海の姿だった。
 そのうちに微々《とろとろ》と蝋燭が燃え縮まり、掻消すように壁の姿はなくなって、また暗黒の部屋に返った。
 源内先生は、蝋燭を吹消して以前のように灯火を点け、
「ご説明申上げるまでもなく、あれなる壁の面にレンズが一つ嵌込《はめこ》まれてありますが、蝋燭の火があのレンズの中心を通過する高さにまで燃え縮まってきますと、蝋燭の火はレンズを透してその後にある鏡に焦点を結び、その光はそれと相対の位置に据付けてある幻燈《フロ》の種板《たねいた》とレンズを透して反対側の壁に像を結ぶという他愛のない仕掛なのであります。蝋燭の火がレンズの中心を通りまする時間はほんの六、七秒の間のことで、それより蝋燭が燃え縮みますと絶対に壁の上には像は結びません。この仕掛と蝋燭の火の関係がわからなければ、永久にこの秘密を看破ることは出来なかったのであります。しかし、幻燈の像は人間を殺害することは出来ませんから、利七とお種に直接の兇刃《きょうじん》を加えた者は、予《あらかじ》め暗闇に潜んで待っていた二人の共犯者であって、壁の像が消えるのを待構え、それが恰《あたか》も陳東海が飛掛かったように思わせながら背後から突刺したものに相違ありません。申すまでもなく大阪庭窪、蘇州庵の場合も、この長崎の場合と同じ仕掛がしてあったと申上げるのは蛇足に過ぎる憾《うら》みがありましょう」
 源内先生は、そう言うと、満面に得意の微笑を泛べながら一座の人々に軽く一揖《いちゆう》した。



底本:「日本探偵小説全集8 久生十蘭集」創元推理文庫、東京創元社
   1986(昭和61)年10月31日第1刷発行
   1989(平成元)年3月31日4版
入力:川山隆
校正:門田裕志、小林繁雄
2007年12月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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