》ば取っておくんなしゃい、と申しました。細かしく訊ねますと、陳が江戸へ上る日、お種に申すには、あんたから貰うた手紙がわたしの居間の箪笥の中にひと括《くくり》にしてあるけん、盂蘭盆の夜の五ツ半頃、みなが焔口供《えんくぐ》の法会《ほうえ》に唐寺へ行った頃を見澄ましてそっと取りに来い、ということで、お種もかねがねそればッかり気に病んでおッたのでしたけんに、約束通り、唐人《あちゃ》がみな寺へ上った頃出かけて行って陳の居間へ入り、燭台の蝋燭に火を点して見ると、誰もいないと思った闇の中に、陳が朱房のついた匕首を振上げて物凄い顔で突ッ立っております。そるけんで、お種は仰天してバタバタと廊下まで走出したところ、陳が背後《うしろ》から追付いて無残に匕首で突刺したのだと申しました」
源内先生は、口を挟まずに聴いていたが、藤十郎が語りおわると、今迄自分の後《うしろ》に差置いてあった骨箱を藤十郎の膝の前に据え、
「さぞ、お驚きのことと思いますが、秘《ひ》し隠して置くわけにはいきません。利七さんは、大阪でこんなことになッてしまいました。月も日も刻も同じ七月の十五日の夜、庭窪の蘇州庵という破《や》れ唐館で同じように朱房の匕首で背中を後から突かれて死んでおりました」
聞くより、わッと泣き出すかと思いのほか、藤十郎は、眼を繁叩《しばたた》きながら、頷いて、
「案の定、やッぱり利七も。……江戸と長崎で二人が殺《あや》められた以上、どッち道、利七も助かる筈はないと、疾《と》ッくに覚悟を決めておりました。……これが利七でございますか。可愛いや可愛いや、何ンの罪科《つみとが》もないお前までこんな姿になってしもうた。何ンでわたしも殺さんのでッしょう。そうしたら、いっそ楽しかるべきを」
ホロホロと、膝へ涙を落した。
銀燭台の蝋燭の灯
翌日の九月の十二日は諸聖祭《トドロス・サントス》の日で、蘭人は死蘭人《しらんじん》の墓詣《はかまい》りをし、天守堂に集まって礼拝する。
十五日は阿蘭陀八朔《オランダはっさく》の日で、甲必丹《カピタン》は奉行所を訪問して賀詞《がし》を述べ、それから代官、町年寄などの家を廻って歩く。蘭館では饗宴の席を設け、奉行並に奉行所役人、通詞《つうじ》出島乙名《でじまおつな》、その他友人、蘭館出入りの者を招いて盛な酒宴を催してこの日を祝う。
甲必丹《カピタン
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