に負けて、いずれ、こっそり催眠剤をやるだろうと見込んでいた……予想どおり、兄は君代に隠してブロムラールを〇・三やった……〇・三で死ねるわけはないのだが、琴子は昏睡したまま、とうとう覚醒しなかった……兄は琴子を殺したのは自分だと思いこんでいるもんだから、君代に退引《のっぴき》ならない弱点をおさえられて、思いどおりに振廻されることになった」
「それで、こんどはあなたの番になったというわけ?」
「ひどい話だ。まごまごしていると、なにをされるかわかったもんじゃない。漕ぎだしたように見せかけるために、もやいを解いてボートを突きだし、今日の夕方まで林の中に隠れていた……ボーイ・スカウト大会のジャンボリーが終ると、子供達の附添や父兄が帰るので車が混みあう。誰かの車に便乗させてもらえれば、うまく検問を通れそうだ……日が暮れてから、ロッジへ来てみると、ボートはあるがプリムスはない。ボートは苦手《にがて》だが、急がずにやれば向う岸まで行けそうだ。そう思ってボートに乗った。石倉もさるもので、林の中から這いだしてから、私がどういう行動をとるか見抜いて、ボートの底に仕掛けがしてあった……栓を抜いて牛脂《グリース
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