いのだから、骨の始末は心のままだ。ひょっとすると、伊良はこの骨に眼をつけて、毎日じりじりしながら死ぬのを待っているのかも知れない。大きにありそうなことだと考えているうちに、なるほどこれが伊良の復讎なのかと、それではじめて釈然とした。
 細君がほんとうに機銃掃射でやられたのかどうか、それを知っているのは窯だけだ。伊良がそういうつもりでかかっているのなら、これはもう皿にされるのはまぬかれないところなので、
「困ることはないさ。死んだらおれの骨をやるよ。期待していてくれたまえ」
 と先手を打ってやると、聞えたのか聞えないのか伊良は、
「ああ、酔った酔った」
 と手枕でごろりとそこへ寝ころがって鼾《いびき》をかきだした。
[#地付き](〈小説と読物〉昭和二十三年二月号発表)



底本:「日本探偵小説全集8 久生十蘭集」創元推理文庫、東京創元社
   1986(昭和61)年10月31日第1刷発行
   1989(平成元)年3月31日4版
初出:「小説と読物」
   1948(昭和23)年2月号
入力:川山隆
校正:門田裕志、小林繁雄
2007年12月12日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全2ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング