たれ》は干割れ、底がぬけかかったのを荒削りの松板を釘でぶっつけてある。この駕籠で七里半の道をゆられて行ったら、まず命がもたない。
ひょろ松は、恐れをなし、
「うわッ、こいつアいけねえ。この駕籠じゃどうも……」
とど助は、花和尚魯智深《かおしょうろちしん》のような大眼玉を剥《む》いて、腕まくりをしながらアコ長のほうへ振りかえり、
「こやつは不とどきな奴ですな。むかしの主人が食の料をうるために乗ってくれとことをわけてたのんでおるのに、素見《ひや》かすというのは怪しからん。こういう不人情なやつは、脛でもたたき折って、否応なしに駕籠の中へドシこんでしまわッせ。拙者もお手つだいするけン」
ひょろ松は、手をあわせて、
「乗ります、乗ります。観念して乗せていただくことにしますから、そんな凄い顔をしないでください」
ひょろ松は、ほうほうの態で駕籠のほうへ近よりながら、
「いや、どうもひどい目にあうもんだ。……では、はなはだ申しわけありませんが、どうかよろしくお願い申します」
と、草鞋の紐をときかけると、アコ長は駕籠の前へ立ちふさがり、
「まア、まア、待ってくれ。乗るのはいいが、今すぐ駈けだす
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