して殺されているんだから、いずれにしてもなにかの方法で殺ったのに相違ない。近江屋の一家に隠れた悪業《あくごう》があって、大国魂《おおくにたま》さまが罰をあたえるためにお神矢《かみや》を放ったというわけでもありますまい。いったいどんなふうにして殺ったものでしょう」
 アコ長は、いつものヘラヘラ調子になって、
「木曽あたりの猟人《かりうど》には、夜でも眼の見える猫眼梟眼《ねこめふくろめ》というのがあるそうだ。たぶん、そんな手あいでも殺ったかも知れんな」
 今まで黙っていた藤右衛門、出しぬけに膝をうって、
「お話の最中ですが、猫眼というなら、そういうのがこの町に一人いるんでございます」
 顎十郎は息を呑んで、
「えッ、それは、いったい、どういう男なんでございます」
「近江屋の分家で黒木屋五造というごく温和《おとな》しい男なんですが、生れつき夜眼が見え、まっ暗がりの土蔵なんかでも、龕灯《がんどう》いらずに物もさがせば細かい仕事もするという奇態な眼を持っているので、この町じゃ誰も本名を呼ばずに猫眼、猫眼といっております」
「ほほう、それで、その猫眼は御渡御の行列についているんですか」
「いま申し
前へ 次へ
全27ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング