た。
 検屍が済んでから、ひとりずつ別間へ呼ばれて取調べを受けたが、さっきも言ったように、五人ながら円卓から離れなかったということはお互いがよく知っているので、おのおのの申し立ての符節があい、このまま引きとって差しつかえないということになった。
 検屍がすんだのは、ちょうど七ツごろで、もう東の空が白みかけている。
 雨あがりの上天気で、きょうもさぞ暑くなりそうな、雲ひとつない曙《あけぼの》の空に、有明月《ありあけづき》が残っている。
 なにしろ、ずっと夜あかしで、それに、気を張りづめだったから、さすがに疲労をおぼえて、これから駕籠に揺られて帰る気はない。
 船にしようということになって、長崎屋だけをひとり寮に残し、仁科、日進堂、和泉屋、佐倉屋の四人が三囲《みめぐり》から舟に乗り、両国橋の下をくぐって、矢の倉河岸の近くまで来たとき、佐倉屋が、ちょっと、と言って艫《とも》へ立った。
 艪《ろ》を漕いでいた佐吉という若い船頭が、
「旦那、おつかまえしましょうか」
 と、立ちかかるのへ、
「なアに、大丈夫」
 と、こたえて、ゆっくりと小用をたしていたが、やはり疲れていたのか、うねりで船がガクと
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