あッ、と声をのんで茫然としているうちに、顎十郎は、日進堂の肩に手をおきながら、
「……ねえ、日進堂さん、こういう不思議なものを贈物にして、そいつが水に濡れて自然に首をしめてくれるのを気長に待っているなんぞは、あなたもそうとう性悪《しょうわる》だが、最後にあなたが手をくだして盃洗の水をひっかけたのはまずかった」
「畜生ッ」
「なんて言ったって、もう追いつかない。……あなたが天草屋の一族だったということは、きょう調べが届いたから、復讐のためにこんなことを考え出したのだろうとは、うすうす察していたのですよ。……長崎屋さん、この日進堂は、むかし長崎で、あなたがた五人組につぶされた天草屋の次男だということはご存じなかったと見えますな」



底本:「久生十蘭全集 4[#「4」はローマ数字、1−13−24]」三一書房
   1970(昭和45)年3月31日第1版第1刷発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志、小林繁雄
2007年12月11日作成
青空文庫作成ファイル:
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