正せばおなじ清和源氏《せいわげんじ》。土井|摂津守《せっつのかみ》利勝《としかつ》からわかれたおなじ一家。数馬なんかにくらべると、このほうが血筋が近い。いわばこれも因縁ごと、願ってもない決着だというべきでしょうが、残った問題というのは、替玉をして相続をねがいでたという件だ。が、このほうもしらを切って押しとおせば、どうにか無事におさまろうというもの。数馬や数馬の伯父のほうは、土井鉄之助が正面切っておさえつけるはずですから、そういう事実の前には、グウともいえるわけがない」
藤波は舌を巻いて、
「こりゃアどうも、いよいよいけない。すると私がジャジャ張ったら、せっかくの機縁もフイにしてしまうところでしたな。いや、いい教訓を得ました。……これですっかり話はわかったが、すると土井鉄之助はあのとき……」
顎十郎はうなずいて、
「そうですよ。千人悲願をとげさせるまで、どんな奴でも一歩も寄せつけまいと、かげながら守っていたというわけ」
「すると、どっちみち、われわれじゃあ寄りつけなかった。あなたは途中で手をぬいたからいいようなものの、私のほうは、まるっきりの無駄骨折り、こいつあ馬鹿を見ました」
顎十郎はへへら笑って、
「ほら御覧なさい。だからたまにゃあ、ひとのいうことも聞くもんです。あなたはすこし強情だよ」
底本:「久生十蘭全集 4[#「4」はローマ数字、1−13−24]」三一書房
1970(昭和45)年3月31日第1版第1刷発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志、小林繁雄
2007年12月11日作成
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