ツ》な方法を発見したいためなんです。しかし、ちょっとお断りしておきますが、ボク達は、モン・ブランなんて、山だともなんとも思っていないんだよ。ボク達はガイヤアル君という足手まといがあったので、とうとう目的を遂げずに降りて来たけど本気で登ろうと思ったらだね、モン・ブランだろうがモン・ルウジュだろうが、お茶の子サイサイなのよ。ちょっと断わっておくわ。そこでだね、……いいですか、これからが肝心なところだよ。……そこでボクは一昨日の体験によって、つらつら考えたのよ。この文明開化の世の中にだね、ラ・コートから、頂上まで、わずか八粁《より》か十粁《ごり》の道中に二日もかかって、おまけによちよちと四本の手足を使って這い廻るなんてのは進化の逆行だわよ。……文明のチジョクだよ。……そもそもだね、登山なんてのは、要するに山のテッペンへ駈けあがって、そこで旗を振ったり嚔《くしゃみ》したりすることなんだ。だからボクにいわせると、途中のいざこざは抜きにして、いきなりテッペンへあがってしまえばいいじゃないか、っていうのよ。つまりね、途中葬列を廃し、告別式はただちにサン・ドニの寺院にて……って工合にするのよ。だが断わ
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