ョりに吹きつけ始めた。たちまち四辺《あたり》は瞑々たる白色の中に沈み、いまにも天外に吹き飛ばされようと思うばかりに、その風のすさまじさ劇《はげ》しさ、コン吉は凍える指に力を集め、必死と岩にしがみつき、
「オーイ、オーイ」と呼びかけると、はるか上の方からは途切れ途切れにガイヤアルの血声。
「モ、モ、モシ、……下《シタ》ノ方《カタ》。……オ助《タス》ケ下《クダ》サアイ。……手《テ》、手《テ》ガチギレソーダ。……アア……落《オ》チル、……落《オ》チル……」
「手なんか離すなよオ」
「しっかりしてちょうだいよウ」
「ア、アタシ 悪《ワル》カッタヨー。……ヤ、ヤ、山《ヤマ》ナンカ、キョウガ、ハ、ハ、ハジメテナンダ……アタシニハ……カミサンモ……コ、コ、小供《コドモ》モアルンダヨー。……ワア! 助《タス》ケテクレエ……」

 六、馬肉屋的登山法、動物愛の応用。ブウシエの森に囲まれた、ここは遊楽場《カジノ》の喫茶館《キャッフェ》。人目を避け他聞をはばかって、奥まった片隅に会議の席を設《しつら》え、コン吉とタヌが待ち構えていると、ガイヤアルを先登にして三人の山案内《ギイド》が、威風堂々|舳艫《じくろ》
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