一緒にいられる日を、一日でも多くしようとたくらんでいるようにも見えるのである。

     三
 イヴォンヌさんが、白いウールのスーツを着て、うさぎのように飛び込んできた。
 息をきらせながら、大きな声で、
「キャラコさん、きょう射撃会《ショッチング》があるのよ。あなた、おやりになるわね」
「重大な相談って、そんなことでしたの」
「ええ、そうよ。日本の女性全体の名誉にかかわることですもの。こんな重大なことってそうざらにないわ」
「あたしも、出なくてはいけませんの?」
「でも、ことわる理由はないでしょう。……いやねえ、あなたみたいでもありませんわ、キャラコさん。……もっと、しっかりして、ちょうだい」
「困ったわね」
 キャラコさんは、しばらく考えてからあいまいな返事をする。
「あたし、うまくやれるかしら。……見ているほうがいいようだわ」
 キャラコさんが、にえ切らないので、イヴォンヌさんが、かんしゃくを起こす。
「そんな元気のないことではだめ。……お願いだから、やってちょうだいね」
 キャラコさんは、日曜ごとに長六閣下と戸山《とやま》ヶ原の射場へ出かけて行って、射※[#「土へん+朶」、第
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