と叫びたくなるのをいっしんにがまんする。
 四人は、ひと区切りがつくまで仕事をやめない。それを中断されるとあまり機嫌がよくない。キャラコさんはそれを知っているので、決して邪魔をしないようにしている。
 キャラコさんは、矢車草の花の中へ坐って、しんぼうづよく、いつまでも待っている。
 ようやく、槌《つち》の音がやむ。谷底から、おーい、という声がきこえる。谷底をのぞきこんで見ると、四人が崖の上をふりあおぎながら手をあげて叫んでいる。キャラコさんは、勢いこんで、いっさんに崖道を駆けくだる。
 五人は、河原の涼しいところに坐ってお弁当をひらく。
 四人とも、ひどく腹をすかしていてむやみにたべる。やっこらしょと下げてきたたくさんのおむすびが、たちまちなくなってしまう。
 午飯《ひる》がすむと、ちょっと一服する。誰も大してはずんだようなようすは見せないが、すくなくとも、不愉快そうではない。煙草の煙りをゆっくりと吹きだしながら、重い口で冗談めいたことをボツリボツリといい合う。以前にくらべると、これだけでもたいへんな変化だった。
 三枝氏が、むずかしい顔をして考え込んでいたが、何か重大な感想でも打ち明けるような口調で、
「要するに、われわれは、毎日ピクニックをしているようなものだね」
 と、いった。ピクニックという言葉がおかしかったので、みな、クスクス笑いだした。
 三枝氏が、まじめな顔でつづけた。
「……これが、単なる昼食《ひるめし》でない証拠に、こんなふうにしていると、なんとなく歌でもうたい出したいような気持になる。奇態《きたい》なこともあればあるものだ。……たしかに、なにか変調が起きたのにちがいない」
 キャラコさんは、お弁当の殻《から》の始末をして崖の上にあがってゆく。が、夕方までぼんやりしているわけにはゆかない。三日に一度、往復四里の道を歩いて初繩《はつなわ》の聚落《しゅうらく》まで食糧の買出しに出かけなければならない。バスに乗って別所まで出かけることもある。四里といっても、地震で壊されたひどい石ころ道ばかりなので、夕飯《ゆうめし》の支度に間に合うように帰って来るのはなかなか楽ではない。歩くことなら決してひとに負けないキャラコさんも、買出しから帰ってくると、いつも汗みずくになって息を切らしている。
 夕飯《ゆうめし》がすむと、四人はすぐに鉱石の分析試験にとりかかる。
 キ
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