、笑った。
男のファッション・モデルがあるなら、そのほうへ向けてやりたい。あっと息をのむような、すごい服を着ているが、子供に水ましして、無理におとなにしたような、おかしなところがあった。
「もう東京へ帰るんでしょうが、帰ったら、山岸さんのお宅へ伺いなさい。ご両親も、望んでいらっしゃるよ」
「あのひと、子供が口髭をはやしてるみたいな、へんな感じ」
叔母が、怒りだした。
「あなたのほうは、おとなが子供に化けているみたい……その髪は、なによ、馬の尻尾みたいなものをブラさげて……四角な額を丸出しにして……あなたのコンタンは、子供っぽく見せかけて、相手の油断につけこもうというんだ。二十四にもなっているんだから、悪趣味なことはやめて、年だけのナリをなさい」
「お望みでしたら、さっそく、いたします」
「髪だけのことじゃないのよ。あなたの着ている袋みたいなものは、なに? チャンとした服、ないの? あるなら着てごらん、見てあげる」
サト子は、念をおした。
「髪型を変えて、お着換えするのね……一着で、よろしいの?」
「出し惜しみすることはない。あなたが百着もドレスをもっているとは、思っていませんよ」
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