たのだ。なにを考えていらっしゃるのか知らないが、十三億の遺産なんか、現実には、存在しないものなんです」
「アメリカの原子力委員会で、確度十分と折紙をつけたと聞いていますが」
 ボーイが、食事を出してもいいかと聞きにきて、ついでに、卓上灯のスイッチをひねった。その光で、磨《すり》ガラスの花瓶のなかに仕込んだスタンド付きの小さなマイクが、シルエットになってクッキリと浮きあがった。
「確度は十分さ。そうあったらという、仮定においてね……ところでウラニウムというやつは……」
 そこまで言いかけたとき、坂田は花瓶のマイクのシルエットに気がついて、口をつぐんだ。
 卓上灯のそれと見せかけてあるコードのゆくえを、目でたどっていたが、椅子から立つと、坂田は容赦のない顔になって、脇卓のテーブル・クロースをひきめくった。
「テープ・レコーダーか……」
 皮肉な微笑をうかべながら、レコーダーと二人の顔を見くらべてから、ツイと手をのばして、スイッチをあけた。
 由良と芳夫の会話のつづきが、ショパンの『雨だれ』のメロディに乗って、無類のあざやかさで流れだしてきた。
(おやじは、何十回となく、くりかえして聞く……
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