したか……」
 と言いながら、大股にこっちへやってきた。
 サト子は長椅子から立って、へどもどしながら挨拶した。
「いつぞやは、おもてなしをいただきながら、だんまりで逃げだしちまったりして……なんだとお思いになったことでしょう」
「失礼はこちらのことです……いちど、おたずねくださるということでしたから、お待ちしていたのですが、お見えにならないので、どうなすったかと、お噂していました」
 秋川はサト子の連れを捜そうというように、ラウンジのなかを見まわしながら、
「それで、きょうは?」
 神月と秋川がいっしょだと思ったのは、勘ちがいだったらしい。サト子は考えて、神月の名を出すのは控えておいた。
「二時に、ひとに会う約束をしていますので」
「二時には、まだ時間がある……じゃここでお話ししましょう」
 そういうと、ふたりと向きあう椅子に掛けた。
「愛一郎が妙なことをいうので、お名も聞かずにしまったが、あなた飯島の水上氏のお孫さんでいらっしゃるそうで」
 サト子がうなずくと、秋川は、あらたまったようすになって、
「そうと知っていたら、ご挨拶のしようもあったのに……父も私も、水上氏にはご懇意にしていただきました……水上氏は、昨年の春、シアトルでお亡くなりになったのだそうですね」
 とんでもないこったと思いながら、サト子は、つよく首を振った。
「祖父は元気でおります。秘書みたいなひとが、この七日に、氷川丸で横浜に着くことになっていますが、あちらの話が聞けるので、たのしみにしていますの」
 秋川は固い表情になって、サト子の顔を見返していたが、はっと気がついたように、
「これはどうも失礼……なにかの誤伝だったのでしょうな……それはそれは、さぞ、お待遠なこってしょう」
 おだやかに笑い流すと、調子をかえて、
「あなたは中村君をごぞんじなんだそうですね。つい、いましがた帰りましたが、あなたの噂をしていました。まだ、お小さかったころの話などを……」
「このごろ、よくお逢いしますが、知り合いというほどの知り合いでもありません。どうして、あたしの子供のときのことなんか、知っているのかしら」
「中村君は、いぜん飯島に住んでいましたから、ごぞんじのはずなんですが」
 そう言われれば、遠いむかしの記憶の中に、中村に似た、いかつい顔があったような気がするが、はっきりと思いだせない。
「そうだったかしら
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