「神月は、秋川なんかといっしょなんだわ」
愛一郎は神月伊佐吉を憎んでいるようだが、どういう関係にあるのか、秋川は、毎月、神月に生活費の仕送りをし、神月が銀座のバーやレストランで使っただけのものは、文句もいわずに払ってやっているということも聞いている。秋川が神月といっしょに食事をするなんてのは、ありそうなことだった。
「神月なんか、どうでもいいけど、秋川や愛一郎に会えるなら、うれしいみたいだ」
ひっそりとした秋の風景のなかで、秋川と対坐したひと夜の楽しい思い出は、いまも心のまんなかに場をとっている。秋川氏はお行儀がよすぎ、どこか、よそよそしいところがあるが、話している間じゅう、気持が落着いて、心の調和といったようなものを感じさせる。もういちど、おだやかな人柄の紳士と対坐してみたいとねがっていたが、こんな折に秋川に会えるのかと思うと、気持がはずんできて、ひとりでに笑いだしそうになる。
ガラス扉を押して、クロークにコートをあずけると、ボーイ長らしいのが、見さげはてたような目付で、サト子のほうへやってきた。
「どなたさまに?」
「神月さんに」
ボーイ長は冷淡にうなずいた。
「うけたまわっております。まだ、お見えになっておりませんが、どうぞ、こちらで」
そう言いながら、グリルにつづく朱色の長椅子のあるところへ案内した。
寒々としたラウンジには、若い男女の一対がさしむかいになって話しこんでいるきりで、神月の姿はなかった。
「きょう秋川さんが、おみえになっていらっしゃるんでしょ?」
秋川の名をいうと、ボーイ長は、とたんに謹んだようすになって、
「ダイニングで、食事をなすっていらっしゃいます」
「おひとり? おふたり?」
「いつものように、ご子息さまと、それから、お客さまが、おひと方……なんでしたら、あちらへ?」
「ここでお待ちするわ……愛一郎さんを、ちょっと、どうぞ」
「あなたさまは?」
「鎌倉の飯島、と言ってください」
ボーイ長は会釈をして、食堂のほうへ行くと、すぐ愛一郎がラウンジへ出て来た。うしろに中村吉右衛門が、ひき添うような恰好でついている。
愛一郎は、サト子のそばへやってくると、なつかしそうに手をとって、
「とうとう、つかまえた……待ちぼうけをくわした罰に、これから家へひっぱって行きます。いいでしょう?」
と、言いながら、身にそなわった品を失うほど、
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