てから、
「なんでしたら、あたしがお取次ぎいたしましょう」
「アドレスを、おしえていただくだけで、結構です」
「あれは、小さなときから、フワフワと落着きのない娘でしたが、なまじっか、はんぱな職業を持っているので、私どもへ寄りつかないので、困ります」
「夏の終りごろ、鎌倉のお宅へ行っていらしたように、聞いていますが」
「間もなく、東京へ帰りましたが、どこへモグリこんでいるものやら、いっこうに……」
坂田は微笑をうかべながら、おだやかに、おしかえした。
「はてな……すると、いま、取次いでやってもいいとおっしゃったのは?」
由良は、ぷっくりふくれた瞼《まぶた》の間から、坂田の顔色をうかがっていたが、相手がおとなしくしているので、いきなり高飛車に出た。
「よしんば、あれの居どころをぞんじておりましても、あなたにだけは、お知らせしたくないわ。サト子の一身を、保護する意味でもね……あなたが、邪魔なサト子を、殺すだろうとまでは考えませんけれども、用心に、如《し》くはなしだから」
坂田は、目の色を沈ませながら、じっと由良の顔を見つめた。
「私が水上氏のお孫さんを邪魔にするというのは、どういうところから割りだしたことなんでしょう?」
「根拠のないことじゃないんです……先日、有江さんが、シアトルであなたが父と約束した、鉱業権の再譲渡の件を実行したかどうか、手紙でたずねてきました」
「なんのことだか、わかりかねますんですがねえ……苗木の鉱山の鉱業権は、私が水上氏から買ったので、いまのところ、ひとに譲る意志はありません。そのことは、熱海ホテルでお目にかかったとき、かねて申しあげたはずですが」
芳夫が、横あいから打って出た。
「有江さんの手紙には、そんなふうには書いてありませんでしたよ」
由良が、うなずきながら、芳夫にいった。
「あなたは手紙をコピイしたひとだから、筋立った話ができるでしょう。坂田さんに、よく言ってあげてください」
「有江さんの手紙は……」
芳夫は胸を反らすと、検事の論告のような調子でやりだした。
「水上氏とあなたが、千九百四十九年のウラニウム・ラッシュにうかされて、ガイガー計数管を持って、カナダの国境に近いほうへ出かけて行ったところから、はじまっています」
坂田は、手をあげて、冷淡にさえぎった。
「詩ですか? 詩なら、たくさんだ。またこのつぎに、ゆっくりやって
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