の通《つう》になっていられるから、そのへんのことは、おわかりでしょうが、問題は、ほかにもあるんです」
「どんなことなのか、言っていただきましょう。ね。聞くだけのことは、聞いておく心要があるから」
「このごろ、姉が、さかんに神月のところへ出かけて行く……西ドイツから新兵器の売込みに来ている、パーマーというやつの秘書兼通訳をしていることは、ごぞんじでしょう」
「知ってるわ」
「姉は、パーマーと神月を結びつけて、ひと仕事しようとしているらしい、そういう形跡があるんです」
「神月は、これと、どういうツナガリがあるのかしら?」
「水上氏が、苗木の鉱山で砂鉄をとっていた磁気工業から、採掘権の委譲をうけるとき、神月から、いくらか金を借りている。坂田が水上氏の借金を返済したという話は聞かないから、鉱業権を移すような場合には、出資者として、神月はものをいえる立場にあるわけです」
「あんなひとが挾まっているとは、あたしも知らなかった」
「有江氏の手紙で、わかったことなんでしょ。しかし、おやじは、神月のほうは問題にしていない。秋川から仕送りをうけて、食っている状態だから、どう動きだそうと、たいしたことはない。心配なのは、むしろ秋川氏のほうです」
 由良は、びくっとして芳夫の顔を見た。
「秋川って、もと開発銀行のなにかをしていた、秋川良作のことなの?」
「あの秋川……細君が死んでから、ひっこんでいるけど、買う気になれば、十三億くらいの金は、どこからでも持ってくる。アメリカの原子力委員会が、折紙をつけたほど確かなものなら、どこへもやらずに、日本にとっておきたいと、たれにしたって、思うでしょうから」
 由良が溜息をついた。
「秋川までがねえ……それで、なにか、それらしいことがあるの?」
「この夏の終りに、秋川の親子が、サト子さんを扇ヶ谷の家へひっぱりこんで、ひと晩、泊めたという事実があるんです……このごろ、聞いた話だけど」
「その話、あなた、たれから聞いた?」
「姉から」
「カオルさん、秋川なんかのところへも、出かけて行くんですか」
「思いたつと、夜でも夜中でも、ひとりで車で出かけて行きます。誰も居ない空家へ、寝っころがりに行くんだ、なんていっていますが、裏になにがあるのか、たれも知らない」

  仮装人物

「きょうは、なにか、耳に痛いことばかり伺ったけど……」
 由良が、むっとしたように、
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