》は無《な》く、健康《けんかう》なること牛《うし》の如《ごと》く、嚴父《げんぷ》の保護《ほご》の下《もと》に生長《せいちやう》し、其《そ》れで學問《かくもん》させられ、其《それ》からして割《わり》の好《よ》い役《やく》に取付《とりつ》き、二十|年以上《ねんいじやう》の間《あひだ》も、暖爐《だんろ》も焚《た》いてあり、燈《あかり》も明《あか》るき無料《むれう》の官宅《くわんたく》に、奴婢《ぬひ》をさへ使《つか》つて住《す》んで、其上《そのうへ》、仕事《しごと》は自分《じぶん》の思《おも》ふ儘《まゝ》、仕《し》ても仕《し》ないでも濟《す》んでゐると云《い》ふ位置《ゐち》。で、生來《せいらい》貴方《あなた》は怠惰者《なまけもの》で、嚴格《げんかく》で無《な》い人間《にんげん》、其故《それゆゑ》貴方《あなた》は何《な》んでも自分《じぶん》に面倒《めんだう》でないやう、働《はたら》かなくとも濟《す》むやうと計《ばか》り心掛《こゝろが》けてゐる、事業《じげふ》は代診《だいしん》や、其他《そのた》のやくざもの[#「やくざもの」に傍点]に任《まか》せ切《き》り、而《さう》して自分《じぶん》は暖《あたゝか》い靜《しづか》な處《ところ》に坐《ざ》して、金《かね》を溜《た》め、書物《しよもつ》を讀《よ》み、種々《しゆ/″\》な屁理屈《へりくつ》を考《かんが》へ、又《また》酒《さけ》を(彼《かれ》は院長《ゐんちやう》の赤《あか》い鼻《はな》を見《み》て)呑《の》んだりして、樂隱居《らくいんきよ》のやうな眞似《まね》をしてゐる。一|言《げん》で云《い》へば、貴方《あなた》は生活《せいくわつ》と云《い》ふものを見《み》ないのです、其《そ》れを全《まつた》く知《し》らんのです。而《さう》して實際《じつさい》と云《い》ふ事《こと》を唯《たゞ》理論《りろん》の上《うへ》から計《ばか》り推《お》してゐる。だから苦痛《くつう》を輕蔑《けいべつ》したり、何事《なにごと》にも驚《おどろ》かんなどと云《い》つてゐられる。其《そ》れは甚《はなは》だ單純《たんじゆん》な原因《げんいん》に由《よ》るのです。「空《くう》の空《くう》」だとか、内部《ないぶ》だとか、外部《ぐわいぶ》だとか、苦痛《くつう》や、死《し》に對《たい》する輕蔑《けいべつ》だとか、眞正《しんせい》なる幸福《かうふく》だとか、と那麼言草《こんないひ
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