れる。一同はぴたっと沈黙する。そして申しあわせたように、教室の後方に頭をめぐらす。みんなの視線の集まるところに、屁えこき虫の石太郎が、てれた顔をつくえに近くさげて、左右にすこしずつゆすっているのである。
 その静寂《せいじゃく》の時間がやや長くつづくと、石だ、石だ、という声が、こんどはだれいうとなく、石太郎よりもっとも遠い一角より起こってくる。藤井先生は黒板のうらがわにかけてある竹のむちを持って、つかつかと石太郎のところへいき、いいかげんにしとけと、むちのえ[#「え」に傍点]で、石太郎のこめかみをこづかれる。そのときは先生も、石太郎と協力してとった古いたち[#「いたち」に傍点]の代で、一ぱいいけたことは、忘れていられるように見えるのである。
 こういう情景は、もうなんどくり返されたかしれない。いつも判でおしたかのごとく同じ順序で。
 秋もはじめのころの、学校の前の松の木山のうれに、たくさんのからすがむれて、そのやかましく鳴きたてる声が、勉強のじゃまになる、ある晴れた日の午後であった。
 春吉君たちは、六時間めの手工《しゅこう》をしていた。その日の手工は、かわら屋の森一君がバケツ一ぱい持
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