しても見つけなかったわね。そして、よし坊ちゃんが、あの日の夕方から病気になったから、あれきりになったんだわ。どこへかくしといたの?
三男 裏のきんかん[#「きんかん」に傍点]の木の下だよ。
長女 あら、よし坊ちゃんずるいわ。かけひ[#「かけひ」に傍点]の向こうはやぶだから、いけないってきめてあったじゃないの。ずるいわ、よし坊ちゃんたら。
三男 まだあるかなあ。
長女 あんなとこだれもほらなくてよ。あたし見てこようか。
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(女の子裏口から出ていく。やがて貝のからを持って帰ってくる)
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長女 あったわ。かけひ[#「かけひ」に傍点]で洗ってきてよ。
三男 花はあった?
長女 しなびてたわ。
三男 しなびてた?
長女 しなびるわよ、冬を越したんですもの。
三男 ぼくのかばんのお弁当入れるところにね、もうひとつ貝があるから持ってきて。
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(女の子さがして持ってくる)
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三男 それ合わせてごらんよ。うまく合う?
長女 うまく合うわ。ほら、ちょうどてのひらを合わせたみたい。
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(それを病気の子に渡す)
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三男 まだ鳴るかなあ。
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(口にふくんで弱々しくふく。鳴らない)
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長女 土の中にあった間に、どこかきっと欠けたのよ。
三男 鳴るよ。……じっときいてると、いっぱいになるよ。……風の音や笛の音がするよ。……たくさんの音がするよ。どこか遠くの方へ消えていくよ。
長女 うそよ。なにもきこえやしないわ。
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(病気の子、貝をくわえたまま耳をすましている。間)
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三男 ねえちゃん、……ぼくなんだか軽くなった。あ、ぼくもとんでくよ。風の音や笛の音の中をいっしょに……おかあちゃん……ああ、ぼくもとんでくの……。
長女 なにいってるの、よし坊ちゃん。あんた、どこ見てんの。
三男 花びらや笛の音といっしょに流
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