太郎君のかた足ずつをふいた。音次郎君は、草の上からパンツをひろってきた。兵太郎君は、なにからなにまで、みな、ひとにさせた。ぼうしまでかぶせてもらった。
ところで、兵太郎君は、すっかり身じたくができたのに、歩きだそうとしなかった。ときどきいたみがおそうかのように、顔をしかめて腹のところからからだをおった。
あとの三人は、こまったなア、というように顔を見あわせた。しかし、ほんとうに兵太郎君のからだに故障ができたかどうか、三人は半信半疑だった。
というのは、兵太郎君はいぜんから、死んだふりや、腹のいたむまねが、ひじょうにうまかったからである。フットボールが飛んできて、兵太郎君の頭にあたりでもすると、かれはふらふらとよろめいて、地べたの上にところきらわずばったりたおれ、あたりどころが悪くて、自分はおだぶつしてしまったのだというようすをして見せるのであった。そのまねは、真にせまっていた。久助君はまだ、人間がフットボールにあたって死ぬところを見たことはないが、もしそういうことがあるならば、きっと兵太郎君がするとおりの所作《しょさ》をして死ぬだろうと思っていた。たびたび兵太郎君のまねにだまされたものでも、いったん兵太郎君が、死んだまねをしてたおれると、こんどこそほんとうに死んでしまったのではないかと思うのだった。そして、みながそろそろ心配しかけるころを見はからって、死んでいた兵太郎君は、ひやっ[#「ひやっ」に傍点]というようなさけび声をあげて、生き返ってくるのが常だったのである。
だからきょうも、あのて[#「て」に傍点]ではないかと、三人は思った。賞品のかきをせしめられたはらいせに、きょうのしばいはいつもより手がこんでいて、長いのではあるまいか。
しかし、じっさい顔の色がいつもより青い。それに、フットボールがあたったくらいのこととはちがって、かなり長く、下腹部《かふくぶ》をひやしたのである。病気になる可能性は、ほんとうにあるのである。
それなら、こりゃじぶんたちも同じように腹をひやしたのだから、同じようなことになるのではないかと、久助君は、こんどはじぶんの腹が心配になりだした。そう思うと、なんだかへそ[#「へそ」に傍点]の下の方がしくしくするみたいである。
「よし、おぶされッ」
と、徳一君は、しゃがんで背中《せなか》を兵太郎君の方にむけた。兵太郎君は力なくおぶさった。
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