ぬいで、緑と黄のまじった草の上にすてた。
ぬいでしまうと、へんに下がかるくなった。風が素足《すあし》にひえびえと感じられる。
徳一君を先頭に、川っぷちの草にすがりながら、川の中にすべりおりた。ひと足入れると、もう、ひざっこぶしの上まで、水がくるのである。
「つめたいなあ」
足から身内《みうち》にあがってくる冷気が、しぜんに三人にいわせるのであった。
かきがほしいだけではなかった。いまじぶん、おしりをまくって水にはいることが、おもしろいのだった。そこで三人は、上で見ている音次郎君にいわれるまでもなく、まん中あたりまではいっていった。案のとおりだった。水はひたひたとはいあがってきて、久助君のおへそ[#「おへそ」に傍点]の一センチばかり下でとまった。
三人は、むきあって立って、じぶんのへそをあらためてながめたり、ひとのへそを観察したり、じぶんたちのざま[#「ざま」に傍点]のおかしさにクスクスわらったりした。しかし、ものをいうと、歯がカチカチ鳴って、みょうに力が背中《せなか》に集まるような気がした。動くとつめたさがいっそうひどく感じられた。
しばらくみなだまっていた。どこかで、日ぐれの牛がさびしげに鳴いた。それをしお[#「しお」に傍点]に、徳一君がげんしゅくな表情になって、そろりそろりと岸の方へ動きだした。まだぬれていないところをなるべくぬらさぬように、ゆっくりいくのである。久助君と兵太郎君は顔を見あわせたが、もうわらわなかった。
久助君はふたりきりになると、このゆうぎはひどくばかげていると感じられたので、まだがまんすればできたのだが、勝ちを兵太郎君にゆずることにした。徳一君がしたように、そろりそろり岸の方へ歩みよって、草にすがって上にあがった。
草をふんで立つと、ひえのために、足のうらがしびれているのが、よくわかる。すぐ手ぬぐいで足から腰をふいて、パンツとズボンをはいた。からだがふるえているから、ズボンをはくときよろけていって、やはりズボンをはいている徳一君にぶつかった。
まだ兵太郎君は、川の中にはいっている。もう勝ちはかれにきまったのだから、なにも、やせがまんしているわけはないのだが、とくいなところをひとに見せたいのだろう。こういう点が、ほらふき[#「ほらふき」に傍点]の兵太郎君のばか[#「ばか」に傍点]なところであると、久助君は思って見ていた。兵太郎
前へ
次へ
全10ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
新美 南吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング