く火をつけることが出来たでしょうか。いえ、いえ。亀は花火のそばまで来ると首が自然に引込《ひっこ》んでしまって出て来なかったのでありました。
 そこでくじ[#「くじ」に傍点]がまたひかれて、こんどは鼬が行くことになりました。鼬は亀よりは幾分ましでした。というのは首を引込めてしまわなかったからであります。しかし鼬はひどい近眼《きんがん》でありました。だから蝋燭のまわりをきょろきょろとうろついているばかりでありました。
 遂々《とうとう》猪が飛出しました。猪は全《まった》く勇《いさま》しい獣《けだもの》でした。猪はほんとうにやっていって火をつけてしまいました。
 みんなはびっくりして草むらに飛込み耳を固くふさぎました。耳ばかりでなく眼もふさいでしまいました。
 しかし蝋燭はぽんともいわずに静かに燃えているばかりでした。



底本:「新美南吉童話集」岩波文庫、岩波書店
   1996(平成8)年7月16日第1刷発行
入力校正者:浜野 智
1999年3月1日公開
2003年10月12日修正
青空文庫作成ファイル:
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