て、「ゆうかんなる水兵」の曲をウウウ、ウ、ウと、うたいだしました。
それは、いつも、正坊とクロが舞台に出ていくときの、たのしい曲なのです。クロは正坊のうた声をきいて、しばらく耳をぴくぴくさせていましたが、やがてヒョコリと立ちあがりました。正坊がすかさず、手のひらの丸薬を口の中へおしこむと、クロはぞうさなく、ペロリとのみこみました。
こんなことがあってから、正坊とクロは、まえよりもまたいっそう、はなれられないなかよしになり、見物人からも、団の人気者にされました。
これも、やはり、ある村で興行《こうぎょう》していたときでした。いつも正坊やクロといっしょに出て、喜劇をする道化役《どうけやく》の佐吉《さきち》さんが、一座からぬけて、にげ出してしまったので、そのかわりを、ふとった団長がつとめることになりました。
「クロ、出る番だよ」
正坊はクロをおりの中から出すと、れいによって鼻のうえをなでさすりながら、クロの大すきなビスケットを、口の中へいれてやりました。
舞台では留《とめ》じいさんが「ゆうかんなる水兵」のラッパを、ならしはじめました。
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ラロララ、ラララ、
ラロ、ラロ、ラ、
ラロララ、ラロラ、
ラロ、ラロラ、
ラロ、ラロ、ラロラ、
ラロ、ラロ、ラ。
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正坊は、白い鳥のはねのついたぼうしをかぶり、金ピカのおもちゃのけんをこしにつるして、将軍になりすまして、クロのせなかにのっかりました。クロはラッパの音に歩調をあわせて、元気よく舞台へ出ていきました。
「あらわれましたのは、ソコヌケ将軍に、愛馬クロにござーい」
留じいさんが口上《こうじょう》をのべますと、正坊はクロのせなかから、コロリところげ落ちてみせました。見物人はどっとわらって、手をたたきました。
「将軍はただいまから、盗賊《とうぞく》たいじに出発のところでござーい」
クロが、ああんと赤い口をあけました。将軍の正坊は、クロのせなかにまたがったまま、ポケットからビスケットをつかみ出して、口の中へいれてやりました。クロは正坊の手首までくわえてしまいました。正坊は目をパチクリさせて、またクロのせなかから、落っこちてみせて、見物人をよろこばせました。
やがて賊にふんした団長が、銀紙《ぎんがみ》をはったキラキラした大太刀《おおだち》をひっつかんで出てきました。正坊のソコヌケ将軍は、それを見ると、おどろいて、ブルブルふるえながら、剣《けん》をほうり出して、クロの首っ玉にしがみつきました。見物の子どもたちが、またどっと声をあげてわらいました。
「こらっ」
団長はつけひげをつけた、ひげだらけの顔に、するどくとがった目をむいて、身がまえをしました。クロはちらっと、団長のそのおそろしい顔を見ました。それは団長が、いつも正坊をおこりつけるときの顔でした。そこでクロはてっきり、団長がいつものように、ほんとにおこって、正坊を竹の刀でなぐりつけるのだと思いました。
「こらっ」
団長はまた、刀をふりかぶりました。と、クロは、ウオウッとひと声ほえるといっしょに、正坊のからだをかるがるとくわえて、あっといううちに、見物人の中をかけぬけて、テントの外へとび出してしまいました。これには見物人も団長も、留《とめ》じいさんもあっけにとられてしまいました。正坊もびっくりしてしまいました。
やがて、テントの外の原っぱにおろされると、正坊は、クロの頭やせなかをやさしくなでまわして、なだめすかしました。そしてやっと、舞台へつれてかえると、まず見物席にむかっておわびをいい、賊のすがたの団長にあやまりました。見物人はかえって、やんやとはしゃぎさわいでよろこびました。団長は舞台のうしろで、にがわらいをしていました。
四
小さなサーカスは、村むらをねっしんにうってまわりましたが、みいりはほんの、みんなが、かつかつたべていけるだけの、わずかなものでした。
そのうちに、一とうの馬が病気で死んでしまいました。「おしいことをしたなあ」と、団長をはじめ、留《とめ》じいさんもお千代《ちよ》さんも、正坊《しょうぼう》も五郎も、馬の死がいをとりまいてなげきました。
それからひと月もたったある朝、目をさましてみると、団長とお千代さんと、正坊の三人きりをのこして、ほかの軽業師《かるわざし》は、みんな小屋をにげ出していました。これではいよいよ、興行《こうぎょう》することができなくなりました。団長もしかたなく、わかれわかれになることに話をきめました。
クロはおりにいれられたまま、車にゆられて、町の動物園に売られていきました。
正坊とお千代さんは、のこった一とうの馬と、テントやテーブルやいすなぞを売りはらって、できたお金をもらいました。
「団長さんはなんにもなくなって、
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