させています。
 見物席のほうからは、つぎの出しものをさいそくする拍手の音が、パチパチひびいてきます。そこでとうとう、道化役《どうけやく》の佐吉《さきち》さんが、クロにかわって、舞台に出ることにしました。そのとき、だれかが、
「正坊《しょうぼう》がいたら、薬をのむがなあ」
と、ためいきをつくようにいいました。団長は、
「そうだ。お千代《ちよ》、正坊をつれてこい」
と、ふといだみ[#「だみ」に傍点]声でめいじました。お千代は馬を一とうひきだして、ダンスすがたのまま、ひらりとまたがると、白いたんぼ道を、となり村へむかってかけていきました。

       二

 正坊《しょうぼう》は初日《しょにち》のはしごのりで、足をひねってすじをつらせ、となり村の病院にはいっているのです。
 正坊の病室のまどぎわには、あおぎりが葉っぱをひろげて、へやの中へ青いかげをなげいれていました。正坊は白いねまきのまま、ベッドの上にすわってあおぎりのみきは、ぞうの足みたいだなあと思いながら、ガラスのむこうをながめていました。すると、門のほうで、ひづめの音がしました。やがてだれかが、ろうかをつたわって、こちらへやってくるようです。ドアのむこうにお千代《ちよ》さんの顔を見つけだすと、正坊はとびあがってよろこびました。
「ねえさん、ぼく、もうなおったよ。さっきもここで、とんぼがえりをうってみたの」
 お千代さんは、いつも正坊を、ほんとうの弟のようにかわいがっているのでした。
「へえ、早くなおってよかったわね。あのね、正《しょう》ちゃん、たいへんなのよ。クロがはらいたをおこしちゃって、お薬をのませようとしても、のまないの。みんなこまっているの。だから正ちゃんをよびにきたのよ」
「クロが? ではぼく、かえる。もう、すっかりいいんだもの」
 ふたりは院長さんにおゆるしをいただいて、いっしょに馬にのって、かえっていきました。かんごふさんは、門の外へまで出て、見おくってくれました。

       三

「クロ、ぼくだよ。クロ」
 正坊《しょうぼう》は手のひらに丸薬をのせて、右手でかるく、クロの鼻のうえをなでさすりました。クロはさっきよりは、いくらかおちついていましたが、でも目のいろは、まだとろりとうるんで、生気《せいき》がありません。ふうふういきをするたびに、鼻さきのわらくずが動きます。
 正坊はふと思いつい
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