足にあてて見なければわかりません。義則君が、お父さんか何ぞのように、文六ちゃんの足に下駄をあてがってくれました。何しろ文六ちゃんは、一人きりの子供で、甘えん坊でした。
ちょうど文六ちゃんが、新しい下駄をはいたときに、腰のまがったお婆《ばあ》さんが下駄屋さんにはいって来ました。そしてお婆さんはふとこんなことをいうのでした。
「やれやれ、どこの子だか知らんが、晩げに新しい下駄をおろすと狐《きつね》がつくというだに」
子供たちはびっくりしてお婆さんの顔を見ました。
「嘘《うそ》だい、そんなこと」
とやがて義則君がいいました。
「迷信だ」
とほかの一人がいいました。
それでも子供たちの顔には何か心配な色がただよっていました。
「ようし、そいじゃ、小母さんがまじないしてやろう」
と、下駄屋の小母さんが口軽くいいました。
小母さんは、マッチを一本するまねして、文六ちゃんの新しい下駄のうらに、ちょっと触《さわ》りました。
「さあ、これでよし。これでもう、狐も狸《たぬき》もつきゃしん」
そこで子供たちは下駄屋さんを出ました。
三
子供たちは綿菓子《わたがし》を喰《た》べながら、稚児《ちご》さんが二つの扇を、眼にもとまらぬ速さでまわしながら、舞台の上で舞うのを見ていました。その稚児さんは、お白粉《しろい》をぬりこくって顔をいろどっているけれど、よく見ると、お多福湯《たふくゆ》のトネ子でありましたので、
「あれ、トネ子だよ、ふふ」
とささやきあったりしました。
稚児さんを見てるのに飽くと、くらいところにいって、鼠花火《ねずみはなび》をはじかせたり、かんしゃく玉を石垣《いしがき》にぶつけたりしました。
舞台を照らすあかるい電燈には、虫がいっぱい来て、そのまわりをめぐっていました。見ると、舞台の正面のひさしのすぐ下に、大きな、あか土色の蛾《が》がぴったりはりついていました。
山車《だし》の鼻先のせまいところで、人形の三番叟《さんばそう》が踊りはじめる頃は、すこし、お宮の境内《けいだい》の人も少《すくな》くなったようでした。花火や、ゴム風船の音もへったようでした。
子供たちは山車の鼻の下にならんで、仰向いて、人形の顔を見ていました。
人形は大人《おとな》とも子供ともつかぬ顔をしています。その黒い眼は生きているとしか思えません。ときどき、またた
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