がるようにもたれかかった。
久助君は、徳一君のところにもなかまたちはいないことがわかって、がっかりした。が、兵太郎君の動作《どうさ》をみたら、きゅうに、ここで兵太郎君とふたりきりで遊ぼう、それでも十分おもしろいという気がわいてきた。ほし草の積んであるところとか、つぼけ[#「つぼけ」に傍点](藁積《わらぐま》)のならんでいるところは、子どもには、ひじょうにたくさんの楽しみをあたえてくれるものだ。そこで、久助君も兵太郎君のそばへいって、じぶんのからだをゴムまりのようにほし草にむかって投げつけた。ほし草はふわりと、やわらかにあたたかく、久助君をうけとった。とたんに、ヒチヒチと音をたてて、ばった[#「ばった」に傍点]が頭の上から豆畑の方へ飛んでいった。
久助君は、頭や耳に草のすじがかかったが、とろうとしなかった。ほし草の山は、昼間じゅう太陽にあたためられていたので、そこにもたれかかっていると、おかあさんのふところにだかれていたじぶんを思い出させるような、ぬくとさだった。久助君は、ねこのようにくるいたい衝動《しょうどう》が、からだの中にうずうずするのを感じた。
「兵タン、すもうとろうかやァ」
と、久助君はいった。
「やだ。きのう、すもうしとって、そでちぎって、家でしかられたもん」
と、兵太郎君がこたえる。そして、ひざをびんぼうゆるぎさせながら、あおむけに空を見ている。
「んじゃ、かえるとびやろかァ」
と、久助君がいう。
「あげなもな、おもしろかねえ」
と、兵太郎君は一言のもとにはねつけて、鼻をキュッと鳴らす。
久助君はしばらくだまっていたが、ものたりなくてしょうがない。ころころと兵太郎君の方へころがり近づいていって、草の先を、あおむいている兵太郎君の耳の中へ入れようとした。
兵太郎君はほらふき[#「ほらふき」に傍点]で、ひょうきん[#「ひょうきん」に傍点]で、人をよくわらわせるが、こういう種類のからかいはあまりこのまない。自尊心《じそんしん》がきずつけられるからだ。
「やめよォッ」
と、兵太郎君がどなった。
兵太郎君がおこって、久助君にむかってくれば、それは久助君の望むところだった。
「あんまり耳くそがたまっとるで、ちょっとそうじしてやらァ」
といって、久助君はまた草の先で、兵太郎君の頭にぺしゃんとはりついた耳をくすぐる。
兵太郎君はおこっているつもりであったが、くすぐったいので、とつぜん、ひぁっ[#「ひぁっ」に傍点]というような声をあげてわらいだした。そして久助君の方にぶつかってきた。
そこでふたりは、おたがいが、ねこの子のようなものになってしまったことを感じた。それからふたりは、ほし草にくるまりながら、上になり下になりしてくるいはじめた。
しばらくのあいだ、久助君は、じょうだんのつもりで、くるっていた。相手もそのつもりでやっていることだと思っていた。ところが、そのうちに、久助君はひとつの疑問にとらわれだした。どうも相手は、本気になってやっているらしい。久助君を下からはねのけるときに、久助君の胸をついたが、どうも、じょうだん半分のあらそいの場合の力の入れかたとはちがっている。また、久助君を上からおさえつけるときの、相手のやせた腕が、ぶるぶるとふるえている。じょうだん半分なら、そんなことはないはずである。
相手がしんけんなら、こちらもしんけんにならなきゃいけない、と久助君はそのつもりになって、一生けんめいにやりだしたが、そうするうちに、まもなくまた、つぎの疑問がわいてきた。やはり、兵太郎君は、じょうだん半分と心得《こころえ》てくるっているらしい。久助君の手が、あやまって相手のわきのしたから、熱《ねつ》っぽいふところにもぐりこんだとき、兵太郎君はクックッとわらったからである。
相手がじょうだんでやっているのなら、こちらだけしんけんでやっているのは、男らしくないことなので、こちらもそのつもりになろうと思っていると、まもなくまた、まえの疑問があたまをもたげる。
ふたつの疑問が交互《こうご》にあらわれたり消えたりしたが、ふたりはともかくくるいつづけた。
久助君は顔をほし草におしつけられて、ほし草をくわえたり、ほし草があるつもりでひっくり返ったところにほし草がなくて、頭をじかに地べたにぶつけ、じーんと頭じゅうが鳴りわたって、あついなみだがうかんだりした。
また、しっかりと、複雑に、手足を相手の手足にからませているときは、じぶんと相手の足の区別など、はっきりつかないので、相手の足をおさえつけたつもりで、じぶんのもう一方の足をおさえつけたりしていることもあった。
とっくみあいは、夕方までつづいた。おびはゆるみ、着物はだらしなくなってしまい、じっとりあせばんだ。
なんどめかに、久助君が上になって兵太郎君をおさえつけたら、も
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