、常念坊《じょうねんぼう》は思いました。
かまわず、どんどんいきましたが、ふと考えました。うしろからくるのは、犬ではなくて、おばあさんがいった、あのきつねがつけてきたのではなかろうか。こう思うと、じぶんのうしろには、ずるいきつねの目が、やみの中に、らんらんと光っているような気がします。気の小さな常念坊《じょうねんぼう》は、ぶるっと、身ぶるいをしました。
でも、うしろをふりむくのもこわいので、ぶきみななりに、ぐんぐん歩きました。なんだかうしろでは、きつねがいつのまにか女にばけていて、今にも、きゃっといって、とびついてきそうな気がします。
常念坊《じょうねんぼう》は、そのきつねのことを、わすれようわすれようとするように、ちょうちんのあかりばかりを、見つめて歩きました。
二
やっとのこと、村へきました。村へはいると、すこしほっとしました。村では、どこのうちも、よいから戸をしめてしまうので、どっこも、しいーんとしています。その中で、どこかのうちで、きぬたをうつ音が、とおくにきこえます。
そのとき、ふと気がついてみますと、左手にもっていた、だんごの竹の皮づつみが、いつ
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