るかわかったもんじゃない。牛は起きていても寝ていてもしずかなものだから。もっとも牛が眼《め》をさましていたって、火をつけるにはいっこうさしつかえないわけだけれども。
巳之助はマッチのかわりに、マッチがまだなかったじぶん使われていた火《ひ》打《うち》の道具を持って来た。家を出るとき、かまどのあたりでマッチを探《さが》したが、どうしたわけかなかなか見つからないので、手にあたったのをさいわい、火打の道具を持って来たのだった。
巳之助は火打で火を切りはじめた。火花は飛んだが、ほくち[#「ほくち」に傍点]がしめっているのか、ちっとも燃えあがらないのであった。巳之助は火打というものは、あまり便利なものではないと思った。火が出ないくせにカチカチと大きな音ばかりして、これでは寝ている人が眼をさましてしまうのである。
「ちえッ」と巳之助は舌打ちしていった。「マッチを持って来りゃよかった。こげな火打みてえな古くせえもなア、いざというとき間にあわねえだなア」
そういってしまって巳之助は、ふと自分の言葉をききとがめた。
「古くせえもなア[#「古くせえもなア」に傍点]、いざというとき間にあわねえ[#「いざ
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